第3話、ひそやかな枕詞

「俺はシロ。ようやく会えて嬉しいゼ」


そうだった。昨日、一人で立ち飲みバルイベントで何軒か回って、いい気分で酔っ払って地べたに座ってまんまるなお月さまを見ていたら、グレーなうさぎさんに顔を覗きこまれたんだった。


うさぎさんが『ようやく』抱きしめに来てくれた。

ぎゅって抱き返す。『もう離さない』。


「お前、酔っ払いすギ」

「うぇへへ」

「ちょ!変なとこ触んな!?」


あったかくて柔らかいうさぎさん抱きしめて、まあるい後頭部に頭を埋めて、幸せを噛み締めて・・?


「あれ?」

「だから、それからお前の部屋でイイことして、朝がきたってやつだナ」


うさぎさんが可愛らしくキスしてくる。

茶色がかった黒いおめめがぱっちり。


「うさぎさん」

「なんだよ?」


低くて甘い声にドキドキしてしまうが、どう見てもシルバニアファミリー。

もふもふ欲が勝っちゃう。ふわふわ。


「もう、もふるなヨ」

「我慢できない!」


欲望のままに抱きしめれば、呆れた声が聞こえてくる。


「まあ、お前を先に見つけたのが俺でよかった」

「え?私、まだ、うさぎさんを選んでないよ?」

「あ?俺が来たんだ。お前は俺のダ」


「ふふん」と鼻息荒くとっても偉そうなうさぎさん。

半端ない自信。なのにうさぎ。


「あの日から探していた。もし先に見つけられなかったらと結構、焦ってた」

「別に先着順じゃないのだから、急がなくても問題ないんでしょ?」

「あるんだよ。ハートの問題」


うさぎさんは小さなお手で立派な白いもふもふ胸毛を指している。

しなやかなグレーの毛皮はツヤツヤ。いつまでも撫でていたい。


なぜ、うさぎに頭を抱きかかえられてなでなでされる朝を迎えているのかわからないまま、でもこの温もりを手放したくない。


「うさぎさんの特能は瞬間移動でしたっけ」

「ああ。俺はグレーだから人をマークポイントにすれば距離は無制限、地点は300キロぐらいで、移動できるのは俺に触っているのが条件だナ」


この世界のルール。あるウイルスに罹患し、生き残ると確率で特殊能力が発生する。


そして、男性のうち20%ぐらいは姿を変える特殊能力がつく。その殆どが日本人。理由は謎。物理法則では説明つかないなにか。


姿を変えると変異した動物に応じて、特殊能力がつく。

うさぎさんだと「飛翔」に「聴心」。


女性は「魔法」。

属性魔法から、特殊魔法まで、多種多様。


そして、この「病気」は「愛」を欲しがる。


得られた「愛」は「病気」を「祝音」にもするし、得られない「愛」は「病気」を「呪い」に変える。

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