第47話 予言の書4 @萌美

 静香ちゃんに顔を2ミリくらいまで近づけては睨み続ける英子ちゃん。


 流石にわたしは助け舟を出した。



『え、英子ちゃん英子ちゃん、それはまだわかんないから予言なんでしょ?』


『…それじゃねーよ。萌美、オメーもだ。こそこそ慎一郎と何してんだ? 運動部だけハブにしてよぉ? ああ"? 萌子さんよぉ?』



 そう言ってペシペシコピー用紙を手の甲で叩く英子ちゃん。


 萌子はここに書かれてる顧問に名付けられるわたしのあだ名だった。


 しかもなんか性格最悪の変態女っぽいし、納得は別にしてめちゃくちゃ嫌なんだけど…。


 でもバレてたのか…花ちゃんにはいつもお手紙で頼んで、それから受け取るのはいつも放課後の百葉箱の中だった。


 だからバレてないと思ってた。


 これはわたしの落ち度だ。



『わたしは違うよ?』

『わ、わたしも…』



 和美ちゃんはともかく、小夜ちゃんにはわたしのGINGAさん奪われたままだけど? 借りパクとか興奮するけど?



『小夜と和美は黙ってろ。あいつらネクラ檸檬どもだ』



 そう言ってわたし達料理部の面々を眺めてくる。


 わたしがだいたい配っていたから、ちょっと罪悪感があるけど、性格が尖り過ぎている子は丸くなるまで教えたくなかった。


 これ以上は仲間に入れたくなかったのもあるし、追加メンバーなんて花ちゃんになんて言えばいいんだろうと悩んだんだ。


 仕方なくわたしが犠牲になったけど。


 花ちゃん絶対わたしのこと誤解してるよぉ。


 まだわたしシルバーランカーだよぉ。



『れもん…どういう意味デス?』

『生娘というスラングですわ』

『いつの時代なんだ』

『というかザコは黙ってなさいよ』


『誰が雑魚だ! ここに書いてるからってお前ら本気にしてないだろうなッ! 裕美! お前も嫌だろ!』


『裕MIX、A子ガ呼んでマス』


『…エロミ…私が…エロミ…? ふふっ…つまるところ花岡くんはそう思ってたってことですよね? これはお仕置きが要りますね…ふふ…』

『なんかぶつぶつ言ってる…』

『眼鏡曇ってて怖いのよね』

『タイトル通りじゃん』



 タイトル…そうだ。


 予言なんてどうして今なんだろう。


 そう思って天華ちゃんに目を向けると教卓の裏に隠れて制服の裾に手を入れてモゾモゾしていた。



『よろしい。では少し予言の検証といきましょうか』



 そしてピンクのGINGAを手の中に隠した。


 悪っそうな顔ぉぉ。


 も〜カッコいいなぁ。



『天華ァァ…オメーもだったか。上等じゃねーか。何するかわかんねーけどアタシは予言なんて信じねー。慎一郎には悪いがな! かっかっかっかっ!』



 英子ちゃんは腕を組んで仰け反りながら高らかに笑った。


 まあ、天華ちゃんがこんな顔の時はだいたい勝ちを確定させてるんだよね…。



『ふふ…Gに耐えられるかどうかでわかるでしょう』



 閣下、それどこから取り出したのかは突っ込まないでおきまぁす。





 そしてやっぱり情け無いことに、英子ちゃんは負けた。



『はい城之内さ〜ん。まだまだですよぉ。感想文を書くにはまだまだ足りませんからね』



 攻めてるのはいかにも図書委員といったおさげで大人しい静香ちゃんだった。予言で恥ずかしさが突破したのか、英子ちゃんの態度に限界が来たのか、二つあるおさげを解いて髪が乱れてた。



『ちょ、ちょーしのって、しゅ、しゅみましぇぇんでしたぁぁぁぁ…! もうやめてぇぇ…!? シャカシャカとってぇぇぇ…!! イ"ぎッ!? あ、あひ、あへ、あひひッッ!!』


『雑魚ですね』

『雑魚です』

『雑魚ですわ』

『ざーコ、ざーコ』



 大奈ちゃんとリゼちゃんの浮世離れ組はともかく、GINGAさんを知らない子達はおっかなびっくりでビクビク怯えていたけど、ゴミランクのGINGAさんなのに…ザコい。

 

 そして予言通りアヘってるとしか言えないような顔で間抜けに笑っていた。


 ゴクリ……でもこれが…みんな共通の予言の結末、アヘ顔…かな…?


 わたし達も最初はしてたのかな…。



『なんでこれだけしか出ないんですか! この根性なしっ!』



 その量に納得がいかなかったのか、静香ちゃんはしつこく英子ちゃんに絡んでいた。


 これは予言にない姿だよね…。



『で、でりゅわけにゃいだりょ〜!』


『嘘です! 絶対嘘っ! 気合い入れてください! このヘタレヤンキー!!』


『だ、誰がへたれ──しょ、しょこグリグリしにゃいれぇイイ"ッ?!』


『くッ!? これでもまだなの!? ああ天よ! 雨よ! 恵みよ降れぇぇぇいい───ッ!!』



 めぐっ?! 静香ちゃんっ?!


 雨乞いしてもなんともならないよっ!?


 みんなが戸惑う中、剣道ガール、凛とした火燐ちゃんがわたしの横からさっと飛び出し、静香ちゃんを羽交締めした。



『静香ッ! それ以上は城之内が壊れてしまうぞ!』


『は、離して火燐さんッ! だいたい火燐さんだって花岡君と田上君に竹刀持たせただけで結構びちゃびモゴゴッ!?』


『やめろ…。ナニとは言わないが突き破るぞ…?』


『ングッ!?』



 静香ちゃんと違って火燐ちゃんは導火線は太いけど、短い。


 だけど、それも予言。


 そこかしこに予言、予言、予言がある。


 これはやっぱり……わたしの場合はビデオレターかぁ…そんなのするかなぁ…。



『み、みんなせんせ来たよーっ!』


『皆さん! この話はまた放課後に!』



 それからすぐに理佐先生が戻ってきたけど、さすがは予言通り隠し事に特化したみんなというか、何もなかったように振る舞った。


 おとぼけ理佐先生だからかもしれないけど。


 この先生、うっかりもあるけど、花ちゃんにしか興味ないんだよね。


 寧ろわたし達を煽ったりするし。


 予言にはないけど、多分先生にもいろいろ頑張ってあげたんだろうな…。


 そういえばBSSとかNTRとかってなんのことだろう。





『──ところで城之内さんは…具合が悪いのかしら……大丈夫? 城之内さん? 聞いてるの?』


『エーコ…エーコ、先生呼んでるよ。エーコってば!』


『にゃ、にゃんれもにゃいれ〜す』


『そ、そう? でも授業中にダブルピースも変顔もやめましょうね。乙女にあるまじき顔は大事な時の為にとっておきましょう』


『……』



 みんなが笑いを堪えたり深読みしたりしてる中、小夜ちゃんは手鏡で笑顔確認していた。


 時計を見れば確かにもうすぐ男子が帰ってくるかも知れない時間だった。


 相変わらず自由だなこの人…すごく勉強になるけど…。


 そうして瞬く間に予言とGINGAさんは広まり、わたし達はそれぞれ運命をくつがえすために動き出したんだ。


 つまりこれはわたし達が、将来襲いくるであろう予言を信じて今までハタ迷惑にも勘違いして動き回ってきた花ちゃんの裏をかき、いつか彼に恩返し…、違う。


 仕返し…、足りない。


 そう、倍返しする物語なんだ。

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