第46話 予言の書3 @萌美
このクラスはどの学年よりおませだった。
それは花ちゃんの「モテ女とは」という本のせいで始まったんだけど、「漢にした」と聞けばみんな花ちゃんの筆のことだと想像したんだろうな。
みんながわーわー言ってる中、健康優良児みたいなみくるちゃんはいつも元気印なのに、冷たく静かに小夜ちゃんに言う。
『は、ははっ、言えないってことはさ、それ嘘じゃん。それにいっつも避けられてんじゃん』
『違うんですー。あれは好き避けってやつですー。しんちゃんは昔から照れ屋で素直じゃないんですー。ふふ、んふふ、んふふふふふ』
そんなのも当然効かないけど、良いものが見れた。
久しぶりの闇堕ちモードだ。
基本的に小夜ちゃんの瞳は綺羅綺羅としてるんだけど、たまに見せるそれがいい。
瞳孔開いて黒目に光がないこんな時はだいたい別世界にトリップしてて、事実を改ざんしたりするんだよね。
『お、思い込みが激しい…』
『おい…こいつどうする?』
『どうにもできないくらい小夜ってほんと昔から無敵だよね。頭の中』
『なのに男子ってほんっとバカ。下品な会話ばっかだし』
『スカートめくるとか絶対ダメ』
『覗きもだろ…。最初こそこいつすげーって思ってたけど。なぁ?』
『ただの自己中女だし』
『性悪妄想女』
『勘違いかいざん女』
『はっ、届きませんね、そのオープンファンタジー』
みんな結構酷いこと言うけど、小夜ちゃんにはやっぱり効かないし、それくらいは昔から女子の間では当たり前だった。
そして小夜ちゃんはお祈りするみたいにしてポーズをキメる。
後光がわたしには見えた。
足元には雲海がドヨドヨと広がる。
『つまりみんなこれからはこの予言に書いてある男子と仲良くしてねって言いたかったの───……』
…今更? 今更そんなこと言うの?
男子みんながっつり魅了されてますけど?
小夜ちゃんのことだから、全学年別男子に振り分けて〜からの、全裸ピラミッド組体させて〜からの、その上で踊り狂うと思ってたのに。
むしろ花ちゃん以外の男子はしろ。そしてアートの礎になれ。
はぁ…これが普通の女の子に戻ります宣言か…。
本当のアイドルって短命だなぁ…。
『まあ、今までは楽しくてさ。まあそれがわたしだし? 運命かき乱すくらい可愛くてごめんね? チュ』
そして一転投げキッス。
はい可愛いッ!
萌の好きなもの全部詰まってて、何言われてもいっつも許しちゃうっ…!
『出った。男子に見せないキス顔』
『アンタどんな謝罪してんのよ』
『あれ謝罪か…?』
『みくる腹立つんだけどー』
『ヒナも…』
『あ、ムカついた? ムカついたよね? 同じ時代に生まれてごめんね〜みんな〜それより浮気とかいけないと思うのーというかー一番大事なところはしんちゃんはみんなのこと浮気ものだと思ってるってことなのー』
『こ、こいつは〜…!』
『それは煽ってるだけだろう…』
火燐ちゃんはやれやれなんて空気だけど、それは結局は小夜ちゃんには勝てないってみんな思ってて、でもこんな性格だから花ちゃんはきっと嫌だろうとも思ってて、何となくそれでみんな安心して放っておいた。
多分恋とか愛とかじゃない子もいるだろうけど、多分小夜ちゃん選んだら学級崩壊が起こる。
でも、浮気ものだなんて、本当に花ちゃんの部屋から盗んだとすれば、確かにそう思われていたのかもしれない。
『……ギリリ』
いけないいけない。
だけど今言ってきたのは何でなんだろう。
何かまだ隠してることがあるようにわたしには思えた。
小夜ちゃんの隠したいことなんて、あの部屋くらいしかないと思ってたけど…。
『まあだからね、つまりね、これ以上しんちゃんにちょっかい出さないでね。みんなわかったかな〜?』
『はぁ? なんで小夜に言われなきゃいけねーんだよ。黙って聞いてりゃ好き勝手に良いやがってよぉ…?』
そう言ったのは、机に足を載せて椅子を漕ぐヤンキーっぽい英子ちゃんだった。
そこから、空気が変わ…らなかった。
『エーコって黙ってた?』
『うんにゃ』
『まあまあ突っ込みしてたクセに何言ってんのよ』
『これガぼけカルチャーですカ』
『そうですわ』
そんな昔の不良風に凄まれてもみんな負けない。
この予言の書には、みんなが一人ずつ物語のネトラレラだと書かれていて、多分悲劇のヒロインのことだと思うけど、昔からみんな我が強いなぁと思っていたことも納得がいった。
花ちゃんに言われるままに大地に接していても、どこか駄目だってブレーキがかかっていて、わたしの末路もなんとなく納得してしまった。
でも花ちゃんはなんとかしようとしてくれてたんだよね?
いろいろまあまあ迷惑だけどね?
高校生までか…う〜ん。
『う、うっせ! それにまだ言ってないことあんだろ! お静ゥッ!』
『は、はいっ?! なんでしょう!?』
『お前はッ! …お前は、…こんなにこう、なんつーかその、と、図書室とかでよぉ…』
『……?』
『こ、ここまで、こここ、洪水になる…のか…?』
『ずぃッ!?』
驚いた声を出した静香ちゃんは顔を赤らめて黙ってしまった。
決して間違えてはいないけど、場所は図書室でも図書館でもない。
料理部だ。
……そっか。
予言に書いてある場所が違う。
やっぱりそれで花ちゃんはアレを…。
そしてそこから話はGINGAさんの方向に向かっていった。
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