第45話 予言の書2 @萌美

 わたし達は小夜ちゃんを筆頭に「キセキの世代」と呼ばれていた。


 クラスのみんなは、系統こそ違うけど、みんなかわいい。


 クラス以外の男子達をゆーわくしたと多くの先輩女子から嫌がらせをされていた。


 でも、だいたい花ちゃんが庇ってくれて何とかしてくれた。


 何したかわかんないけど、ピタっと止む。


 「ボエー」と歌っただけなんだって言うけど、いつも優しい嘘をつく。



『だ、だからあんなにわざとらしく男子とくっつけようとしてたのねっ!』

『バ、バレバレだよねー! 逆にくっつけたくないって思ってたなー!』

『そ、そうそう、むしろそっち』



 割と酷くない内容の子達はそんな風に言っていた。


 でもこれを知っていた花ちゃんなら真剣だったんじゃないかな…。


 ちょっと行動がアレ過ぎるだけで…。


 みんな勘違いするよ…そりゃあさぁ。


 だから予言を認めることが、みんな出来なかった。それにこの内容なら尖った英子ちゃんとかがこんなことになるなんて嘘っぽい。



『小夜、お前…もしかしてこれを見て慎一郎にいじわるしてたのか…?』


『ふんっ、当たり前じゃない。悪いかしら?』



 出た。小夜ちゃんのお姉さん無双モード。


 でもみんなには効かない。



『悪いよっ!』

『目にあまるぞ』

『その大根やめて』


『ふふ。男子なんてコロっと騙せるんだから』


『ひっど』

『軽い女よね』


『はぁ? 可愛いくて重すぎるっつーの!』


『かわいいとか余計』

『重いのとか流行んないから』


『あーそのリプライ聞こえませんね』



 そして小夜ちゃんにも全然効かない。


 女子だけになると小夜ちゃんは男子の前では決して見せない顔を見せていた。


 それはわたしにとっては羨ましくて嫌いにはなれないところだったし、逆に告げ口をされたら嫌だからみんな男子には黙っていた。


 言っても信じないけど。


 でもそれより突きつけられたこの予言は、今までのことが、花ちゃんとの絆が、足元から揺らぐような気がしてきた。



『…あれ…?』



 でもその時わたしは違和感に気づいて、小夜ちゃんに言った。



『小夜ちゃんのって、書いてないよ?』



 すると小夜ちゃんはタッと教壇の机の上に軽やかに駆け上がって地団駄を踏んだ。


 やっちゃ駄目なことなのに、サマになっていて違和感がなかった。


 まるで天使のロッケンロールだ。


 エンジェルかわいい。



『ん〜〜〜! そうよ! 悪い!? ここには何故か! わたし以外の人の未来が書いてあります! わたし以外の女が! しんちゃんは隣の幼馴染のわたしをほったらかしで! ぽっと出のみんなのために懸命なの! わかる!? この残酷な仕打ち! わたしのこの気持ちッ!』


『わかんね』

『興味ないんじゃ…』

『韻とか踏もうとするなよ』

『あんなにイジワルするからだよ』

『みんな幼馴染でしょ』

『ぽっと出…』

『ギャルゲに負けた女』

『お菓子に負ける女』

『ざまぁ』

『あらあら、ふふ』

『机ニ乗ってはいけナイと思いマス』

『その通りだ』

『言いがかりはやめて降りてください』


『ふんっ』



 天華ちゃんの一言で小夜ちゃんはヒラリとそこから舞い降りた。一番前の席のわたしには、スカートがふわりとめくれた拍子に白のパンツがばっちり見えた。


 ほあぁぁぁぁぁ。


 大地とか鼻血出しちゃいそうだなって思った。


 わたしもだけど。



『言いがかりじゃないしっ! だからつまりね、みんなしんちゃんにあれこれしてもらってきたと思うけど、最初から間違えてたって言いたいの』


『…つまり何が言いたいのよ』


『そんなことわたしの口からは言えないかなぁ〜』



 そう言いながら指をVにしてアゴに軽く添え可愛いポーズをとる小夜ちゃん。


 はいかわゆす。


 クラスのみんなはみんな幼馴染でみんなヤバかわいいけど、かわいいのスペシャリストは小夜ちゃんだ。


 低学年の頃は天使というより戦士なくらいバチバチにみんなと競いあって泣かせていたけど、その頃からモンスターかわいいのは小夜ちゃんだ。


 わたしは心の中でずーっとファンしてる。


 大地は絶対言わないけど、わたしも他の子とかパパとかママに「かわいい」って言われるけど、やめてっていつも言ってる。


 今日も動作が格別滑らかだ。関節とかどうなってるんだろう。きっとツルっツルの軟骨なんだろうな。多分神様は3000番の耐水ヤスリで磨き上げたんだ。



『そのムカつく言い方って何?』

『た、ただのぶりっこのくせに』

『あたしらにはお前のつくり顔とか通じないからな。男子だけだからな』

『あざといだけ』



 みんながブーブー親指下げても小夜ちゃんには通じない。むしろ小夜ちゃんの心の中の戦士が狂戦士になっちゃったりする。



『え? 今あざといっていった? あざとくてごめんね? 可愛いくてごめんね〜? 生まれてきちゃってごめん、ねっ?』



 そう言って小夜ちゃんは頭をコツンとして舌をチロリと出す。


 わたしは一瞬で時を盗まれる。


 小夜ちゃんの特異なキメ技「ワールドイズマイン」だ。


 勝手にそう呼んでるだけだけど、男子はコロっとこれで落ちる。



『…ふふ。私は結構好きですわ。小夜さんの努力は知っていますし』

『おなジク。学校たのシイ』


『さっすが大奈にリゼ! ありがと! ところでみんな、最近髪の毛伸ばしてるよね? それはなんでなのかな〜?』


『い、いいじゃん別に!』

『そうよ!』



 それは花ちゃんがいろいろアレンジしてくれるからだ。


 でもやっぱり小夜ちゃんは関心のないフリして、不満を溜め込んでいたみたい。


 男の子達が予言にあるように、鈍感くそ野郎なだけかもだけど、少なくとも大地には当てはまる部分があった。


 花ちゃんもだけど…。



『だからね、そんなみんなの慎ましー努力は結局無駄なの。わたしはね、ほら、予言にもないし、しんちゃんとはもうすでに深い仲だしさ』


『小夜ちゃんそこkwsk!』



 食い気味のわたしの質問に、小夜ちゃんは少し顔を赤らめて照れ照れしながら答えた。



『そ、それはしんちゃんに悪いし言えないけど……男にした、とだけ……えへっ』



 みんなは絶句していた。


 その言葉の意味を知らないほど、このクラスの女子は子供じゃない。


 何せ保健体育の保健は、天華ちゃんと静香ちゃんからとっくにみっちり特訓済みでみんな満点花丸だったんだ。


 陰嚢とかみんな読めるし普通に書ける。


 だからそこからみんなまたわーわーと騒ぎ出したんだ。


 何で知ってるのかはわからないけど、精通してないのにあり得ないって誰かが言ってた。


 だけどわたしは鼻血がタラりと出ていて、それを誤魔化すのに必死だった。

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