第39話
コンビニに向かうには、途中にある橋を渡る必要があった。
治水の整備された川だが、上流に雨が降ると鉄砲水となって襲いかかってくる危ない川である。
名前もだが。
敢えて言わないが、まあ、そんなエロ漫画特有の地名などは、そもそも全国に広くあるし、受け手の性根の問題である。
思春期にその事実に出会えばその後ずっとそう思ってしまうのだろう。
そんなどうでもいい事を考えていたら、橋を渡りきっていた。そしてコンビニ方向に曲がると男児達がまるでカルガモの子供みたいにヒョコヒョコ歩いていた。
なんなんだ、アレ。
親はいないのか。
違う、そうじゃない。
真ん中にフードを被った女児がいる。
この辺で見たことのない服だが、色味が女の子のそれだ。
それを取り囲む男児は、たまにクラスのラレオ達が集団感染する「僕のアソコが何か変」の姿勢だ。
だいたいは真夏のプールだが、今は冬。冬の方が実は制御不能なのは周知の事実だが、ここはエロ漫画世界。
ナニがどう発展するかわからない。
しかし全員が感染するなんてあるのだろうか。普通友達同士なら「お前もしかして」なんて先に言って自分の状況をどうにか誤魔化すと思うのだが。
しかも女の子も何か変だ。
そうやって眺めていると、そのまま彼らは仲良くカルガモみたいに公衆トイレに入っていった。
衝立があるからここからは男女が別れたかはわからない。
そういえばこの先の未来では馬鹿馬鹿しくも男女一緒なんて狂ったトイレが登場するのだ。
心の内側など、誰がわかると言うのだ。
差別と区別は違うのだ。
それにマイノリティはマイノリティだからこそその価値は輝くのであって、そもそも多様性だと謳うのならますます小分けに分ける必要があるだろうに、それをせず逆にセットインするなど、普通に犯罪が起こるだろう。
俺には信じられない。
そんな政治家を選ぶ国民も。
それこそ異世界だ。
まあ、痛い目を見るのはだいたい何も知らない無辜の民で、気づいた時にはもう遅い、が普通ではあるのだが。
それはいつの時代もそうなのかもしれないが。
そして大声になるのはだいたい数年後のバズーカで、話題と噂が真実を決める社会になっていく。過去を訴え現状を変えるなど、ディストピアだと思うのだが、当人にとっては大問題か…。
だが、その時言わないのだから、言えるタイミングや言うタイミングを選ぶのだから、結局のところ戦略だろうなと思ってしまうのは俺の心が擦れているからである。
そんなことより、邪神的には何も起こらないだろうが、気にはなる。
別に正義の味方を気取るつもりはないが、俺はそっと様子を伺うことにした。
◆
僕は昨日の小夜との運命の出会いの高揚感から、川を渡り貧民街に出掛けていた。
電動自転車でモブ達を引き連れながら聖地を巡礼しようと思ったんだ。
この真っ直ぐな朝立川を隔てて、金持ち地域と貧民街が分かれていた。
貧民街って言うのはもちろん俗称だけど、この格差社会の縮図みたいでピカ小ではみんな気に入って使っていた。
それに凹凸町とか⚪︎×町なんてバカみたいな地名は、だからこそゲーム世界だとわかるのだけど、本当に馬鹿っぽくて嫌だった。
そこに向かう途中、お洒落をした萌美をたまたま見かけた。
彼女もまたゲームでは見なかった艶を放っていて、すぐさま声を掛けたかったのだけど、モブ達に命令して橋の下に連れていかせた。
そして僕は大地を探しに自転車で先回りしてみた。
おそらく待ち合わせに違いない。
だけど、聖地である思い出の公園にはいないし、ウロウロと探すもいなかった。
だからもしかすると別にデートではなかったのかも知れないと、モブ達に頼んでいた河川敷までびゅんと飛ばした。
原作とは違ってもイベントは起こせると昨日の小夜が教えてくれたんだ。
だけど、そこには萌美も底辺モブ達もいなかった。
『はぁ…これだからモブは……』
使えない。
そんな憤りを持ってスマホからグループメッセを送った。
小学生でもピカ小なら15%くらいは持っているんだ。
スマホは危険なんてくだらない風潮も、いずれ淘汰されるのに馬鹿馬鹿しい。
僕は一切駄目だったから今世はしこたま親に媚を売った。
もちろん成績と引き換えにだ。
そうしてできたPAINのグループは、聖也、駿河、そしてボスのグループと、それとは別の僕だけのグループだ。
少しずつ少しずつ勢力を拡大していたんだ。
それは原作にあるように、陸上なら陸上、バレーならバレーと、ユニットにして管理していた。
いずれ来るイベントのために。
でも、小夜の件があって、ゲームの強制力というか、あまり関係ないのかもしれないと、つまり大地と一緒に何かを競いさえすれば、同じようなことが起こるのではと思いついたんだ。
だから一緒に助けようと思っていたけど、仕方ないか…。
いや、それはそれで試すには良いのかも知れないなと思い直していたら、返信がきた。
『なんだこいつ…』
そこには写真が貼られていた。
どうやら河川敷の金持ち側にある公衆トイレみたいだった。
そこにはかぼちゃの被り物を被った中学生がいた。
何かカッコいい枝を持っている。
そして、萌美はいない。女はどこだと聞いても返ってこない。
なんだこいつら! 仕事しろよ! これだから底辺は──いや…。
『もしかして…こいつに……?』
脅されてる?
中学生相手なんて、僕に相手なんて出来るか? モブ達と一緒なら出来なくはないと思うけど、万が一萌美に見られたら今度からそれが使えなくなる。
一回だけなんてあの努力に見合わないし何よりコスパが悪すぎる。
いや、今はそんな事より彼女が心配だ。
多分トイレに閉じこもっているんだろうけど、警察に連絡しよう。
いや…このトイレはあのコンビニが近い。
イートインのあるコンビニだ。
『もしもし、南海君? ごめんね。今どこ? はは、やっぱり。うん、そう。面白いの見つけたから来ない?』
あはは、死んだぞお前。
ついでに潰し合えばいいんだ。
僕は巻き込まれないように、のんびり向かうことにした。
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