第36話 @二階竜也

 そうして思い出したのだけど、僕の小学校がおかしかった。


 ちょうど前世を思い出した時は自習時間で、僕へのいじめが発展していって、まさに前時代的といった様相でみんなして喧嘩していた。


 僕は当然のように別のことを考えていた。



『…いやでも人妻とかは無理だよ…』


『何ゴチャッてんだオラァァッ!』


『ぐハァ!?』



 殴られた!?


 前世も今世も父さんに殴られたことなんてなかったのに!


 そんな事を思いながら僕は倒れ込んだ。


 最後には先生が止めに入って、その場は終わったのだけど、あまり問題にはならなかった。


 まさか主人公の小学校が、腐敗と自由と暴力に侵されていたとは知らなかった。


 それにそんなものは画面の向こう側の創作で、僕とは無縁の世界だった。


 前世も今世も裕福な家庭に育ったのは間違いないけど、卑屈だった僕にあったものは、やはり卑屈さしかなかった。


 あの白くて綺麗だったこの世界が、いかに過剰で黒くて残酷だったのかを僕は身をもって体験した。


 僕があれだけ求めていた自由とは、きちんとした倫理と道徳の上にしか咲かないのだと知ったんだ。


 でもその内、己の中に宿るものに気づいた。


 そうだ。


 僕は前世を憎んでいたんだ。


 これこそが、僕の望んだ自由なんだ。


 そう強く思い、僕は頭を使って彼らの分析を始めた。


 そうすると、マウントを取ってくる奴には強気でいないとダメなんだと気づいた。


 それにどこにムカついていたのか、わかってきた。僕の住むマンションはこの辺りでは一番高かった。だけど低層階だからか、彼らは僕にぶつけていたんだ。


 初めからそうじゃなかったし、原因はやはりクラスにあったんだけど、それを突き止めてからは比較的穏やかになった。


 そうして一年も経てば、周りの環境に慣れ、元々の素質だったのか、いい仕上がりになっていった。


 ただ高校二年間で15人ものヒロインを落とせるか不安になってきた。


 普通に考えれば、到底無理ゲーだ。


 だけど僕には攻略した記憶がある。


 だから僕は動いた。



『おい、キセキの世代って知ってるか?』


『いや、知らないかな…』


『そうか…おもれーやついるなら会ってみたいと思ったんだけどなァ』


『あははは…相変わらずだね。まあ調べてみるよ。聖也達にも言っておくから』



 原作に習ったようなイベントをいち早く起こすために、僕はピカ小のボスの下についた。


 正直なところこいつに勝てるイメージが湧かないくらい最悪な男だった。


 いずれゲームのように仲良くなれるだろう聖也も駿河もそいつには逆らわない。


 人をおもちゃとしか見ていないし、僕の住むマンションの最上階に住んでいるせいか、どこかみんなを見下してた。


 僕はそいつに何とか媚を売って下についた。そしておべっかを使いながらクラスをまとめた。


 原作にはいなかったことから、いずれ私学に進むのだろうし、進まないにしても、中学でリベンジして最後はざまぁしてやるけど今は雌伏の時だ。


 僕のヒロイン達をあいつには渡さない。





 そうして僕はモールに向かった。だいたいのクリスマスイブは、何か起こすチャンスなんだ。


 すると綾小路小夜がいた。


 最初は彼女と気づかないくらい原作と違っていた。


 しかも何故か海里とデートをしていたけど、そういうこともあるんだろう。


 この世界はゲームとは違うのだから。


 でも僕が一番に会いたかったのは萌美だった。朗らかで可愛らしく応援する彼女は僕の癒しだった。


 ただ、今更陸上部になんかに入って大地と競争なんかしたくないし、あいつは基本馬鹿だ。


 馬鹿の相手はピカ小だけで充分だ。


 だけど、萌美との距離を詰めるには、まずは大地と仲良くなる必要がある。


 だから助けるシーンを思いついた。


 聖也を動かす為にお小遣いを使うハメになるとは思わなかったけど仕方なく払って探してもらった。


 居たのは居たのだけど、拘束しておいてと頼んでおいたのに、そこにあの馬鹿はいなかった。


 何があったのかわからないけど、仕方なく次のターゲットに向かった。


 モブ達に拘束しろと命令していたんだ。


 するとそこには慎一郎ではなく、図体のでかい貧民デブモブがいた。


 助けるべきか迷っているのが手に取るように見えていた。


 その気持ちはわからないでもない。


 誰だって自分の命は惜しいし、人のために無償で助けるわけなんて無いんだから…。


 何故かバスの転落事故を思い出す。


 あの時だって仕方なかったんだ…。


 ──もしかして、助けるつもり?


 ──当たり前だろうがッ! こういうのは損得じゃねーんだよ!!


 ──トロッコ問題ってあってさ、それにバス会社に賠償──


 ──こういう時に金とかつまんねーこと言ってると救えるもんも救えねーんだよ! 動けボケェェッ!! 玉ついてんのかオメーッ!!



『……もしかして、助けるつもりか?』


『うん』



 迷いのない返事が、あの時みたいでイライラさせてくる。


 落ち着け。


 もう終わったことだ。


 それにあいつらモブにやられたふりを指導するのは大変だったんだ。


 邪魔はさせない。



『なら僕に任せてじっとしてろ』



 そうして僕は小夜と原作通り出会うことに成功した。


 くっそ可愛いんだ、これがまた。


 最新モニターなんかより解像度が死ぬほど高くて、萌美への気持ちが揺らぎそうなくらいレベルが高い。


 ゲームではこの時期のスチルではまだちんちくりんだったのに、ロリでも全然いける。


 しかも助けたからか、最初から好感度が結構高い。


 あまり感情を表に出すタイプじゃないのに綺羅綺羅とした瞳に吸い込まれそうだ。


 だけど表には出さないだけで、小夜は嫉妬深く、妄執に囚われやすい。ヒロイン全員のヘイトを溜めたり乱したりするキャラだから扱いが難しいんだ。


 すぐに攻略出来るんだけどね。


 天華や他のヒロインにも気難しい子はいるんだけど一番キツいのはヤンデレラの小夜だ。


 まとめには至高とか宝石って書いてあったけど、確かに可愛いんだけど、正直なところ現実だとハーレムなんて刺されるんじゃないかと憂鬱になる。


 でもくっそ可愛いな…しかもなんか危ういエロさを感じる。

 

 はぁ…。


 そんな風に憂いていたら、海里から嫉妬の視線が送られてきた。


 …はぁ?


 お前は天華の許嫁なのに小夜とデートしておいて、しかも助けたのに、はぁ?


 そんな不届者にはお仕置きだ。


 あまり好みじゃないけど、天華も狙ってやるよ。小学校時代ならお稽古ごとに精を出している最中だろう。


 正直ヌルゲーだけどね。


 だって僕はこの世界の神だ。


 この有名美少女ゲーム『カンテラの祝福』の主人公様である二階竜也だ。



『今度また会える…かな?』


『あ、ああ、うん! もちろんだよ!』



 やっぱり原作通りだ…!


 ならこれはハーレムルートを狙うしかないよね。


 ゲームでは出来ないことも……いろいろ出来るだろうしね。


 ふ、ふふ。あははははははははッ!!

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