第35話 @二階竜也
ここはゲームの世界だ――僕がそう気付いたのは小学校三年生の頃だった。
厳しい家庭に生まれ、勉強も運動も完璧にこなすことを強要され続けながら育ち、何一つ自由などなかった。
勉学も私生活も充実していた兄と比べられ、超えられない壁に打ち当たり、だんだんと卑屈になって部屋から出なくなっていった。
そんな自分を救ってくれたのはギャルゲーだった。
そのおかげで親に見切りをつけられないように、それなりに頑張ることが出来たのだけど、敷かれたレールの上を進むだけの人生は、バスの転落事故により呆気ない幕切れとなった。
◆
そうして僕は、小学校三年生の時に同級生からいじめに遭い、唐突にそんな前世の記憶を思い出した。
この世界はあの有名ギャルゲー世界で、僕はそのゲームの主人公だと。
高校に上がるタイミングで主人公である僕は様々なヒロインに出会う。
一人一人清楚で可愛い女の子達だ。
ヒロインには各々幼馴染がいて、それがライバルとなり、高校二年生までに射止めたいヒロインと仲良くし、そしてそのまま目出たくゴールインするのが目的だ。
僕は純愛ものが大好きだった。ライバルと競い意中の女の子と添い遂げるなんて最高だ。
置いてきた青春をやり直している気がしてくるんだ。
そしてこの作品には隠しルートであるハーレムエンドがあると聞いた。
15人もいる各ヒロインを全員攻略し、そして隠しキャラも攻略すると現れるという噂だった。
その情報を得る為に調べていたのだけど、変な事を書いていて腹が立ったことがあった。
確か何かの掲示板を見ていた時だった。
何を言っているのかこいつらはと腹が立ったんだ。
──あのエロ漫画家が出世したもんだな。
──これは決別って意味なんだろ。
──いや、なんでざまおだし。喧嘩売ってんのか?
──内容はともかく一番アクがなかったんじゃね? 他見た目反社だし。
──我々は慎一郎氏を忘れない。
──いや、みんな可哀想だったでしょ…。
──そうか? 動かないやつが悪いんじゃね?
──動いたやつから撃たれるのさ。
──止まってても撃たれてる慎ちゃんいるんすけど。
──流れ弾くらってカーテン開けれなくなったんすけど。
──ご飯食べれなくなったんですけど。
──ちゃんと外出て働けw
──ヒロインは遠くから眺めて妄想でご飯三杯食べるもの。
──間違いない。もう火傷なんてしたくない! 表紙で騙されないぞ! でも文句言いつつまた見ちゃう俺がいる。
──みんな最初はそう言って怒ってたな。懐かしい。
──無理するなシール最後まで貼らなかったもんね。
──絵のクオリティだけは抜群に良いからね…。
──パース狂ってんのにな。
──それが良いんだよ。それにデジタル絵にはない妄執を感じるよね。今のってやり直し出来るじゃん。だから魂がのってないっていうか。
──わかる。今の漫画はなんか軽い。時代かな。
──俺はやっぱり縦スクロールいやかな。
──そうやってまたガラパゴスになるんだぞ。
──ガラパ上等だよ。ユニバーサルなんかするから戦争になるんだ。
──わかる。そんなの介入も解析もし放題じゃんね。石油とか資源は仕方ないにしても。逆にファックスのが新しいんじゃね?
──違う意味に聞こえるな。
──そんな話してんじゃねーよ。ネトラレラを全部混ぜるなんてバカなのか。まあ美少女盛りは正義だが。
──プレイしたくないな。でもしたい。
──幼馴染だらけで幼馴染の概念が狂うな。どうなってるんだろ。
──だよな。もはや全員幼馴染だろ。隣の家系はそう呼んでもいいが。
──それよりこれを何も知らない無垢な少年がプレイすると思うと…。
──ドキドキする。
──ニヤニヤしちゃう。
──そっと教えたくなる。
──わかる。最近の子、痛みに過剰に過敏だから。
──火を着けて踊りたい。
──気持ちいーだろね。
──騙されてはいけない。これは分断を生むつもりに違いない。意図が邪悪過ぎる。
──確かに。これをクリアーした後に過去作見るとヒロインに対してかなり疑心暗鬼になるよね。
──純愛が罠か。やるな神。
──考え過ぎ。せっかく描いたキャラが惜しかっただけじゃね?
──神も大手資本には勝てなかったんだろ。
──ネトラレラの名前くらい変えないか?
──せめてもの抵抗じゃないかな?
──いや、あんなニッチなものばっか描くからでしょ…好きだけど。
──うむ。みな業の者よ。
──そんな麻痺した我々には違う物語にしか見えないんだが、本当のところどう思う?
──この世は弱肉強食って言いたいんだろ。
──もっかい思い出擦るとか嫌なんすけど。全然擦れないんですけど。
──純愛ではな…。
──せめてラレオらから主人公は選びたい。レオンきゅんがいい。出来なかったイケメン無双したい。
──そんなの世の中いっぱいあるだろ。ちょっと俺もう食べ飽きた。
──間男ものも多いじゃん。
──御会とか思い出させないでよ…あの話嫌いじゃないけどさぁw
──でもだいぶソフトみたいだよ。ラッキースケべだけでエロ無しみたいだし。
──エロラレラ達に耐えることができるのか…。
──赤らめた顔が別の意味に見えちゃうよね。きっと家では…。
──すでに間男に開発されていて…。
──陵辱されていて…。
──くそっ、萌美ぃ!
──裕美ぃ!
──和美ぃ!
──三連美か。懐かしいな…。
──やっぱり罠なんだよ。
──クラスメイトに御会とか十戒とかな。何を助けてくれるんだよw
──爽やかな笑顔が恐怖しかない。
──DQNが揃ってるとか別の意味で妄想が沸るな。
──ああ、やっと意味わかった。エロなしって逆にそういうことね。
どうやら各ヒロインの大元はエロ漫画だったみたいで、興味が湧いた僕は原作を読んでみたくなった。
だけど、親の目を盗んで調べてみれば、大量にあった過去作は全てデリートされていた。
紙媒体を探すも、絶版も多く数も少量で、とんでもない額になっていた。
だけどレビューは最低だった。
あんなの見せるなとか、騙されたとか、胸糞とか、タイトルがわかりにくいとか、燃やしてやったとか知らない単語とかさまざまな文句が飛び交っていて、そしてそれをざまぁしてる奴もいるし、あまりにプレイしたゲーム内容と違い過ぎていて、僕は興味を失った。
ともかくゲームが始まるまでまだ随分とある。
つまりこれは、神が言っているに違いない。
例えこれが生の最後に見せる飛沫な幻想だとしても、やり残した夢をやり直せと言っているに違いない。
主人公である僕にハーレムを築くべし、とね。
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