第30話
ちょっとした理由があって、この間からラレオらの風当たりが強かったのだが、意外にも楠木は会話を続けてきた。
『張っ倒すってお前なぁ。今までのこと忘れてないか?』
『…? 何が?』
『何がじゃねーよ! お前が今まで何やってきたのか忘れてんじゃねーだろな!?』
どうやら文句があったようだ。
一応肉まんとともに薬局で絆創膏とかも買ってきて治療してやったのだが…しかしこいつ暴行されたというのに元気だな…。
まあ、文句は小夜のことだろう。
『さーちゃんのこと?』
『ちげーよ! お前の奇行とかだよ! 給食にプロテイン混ぜたのとかいっぱいあるだろ!』
『あれは俺からの配当だな』
『また意味わからんことを…最近は無くなったけど、授業中に変な声だしたりよぉ』
『…あれはサークル活動だ』
『答えてないんだよ…それに何だよあの女子達の最近の態度は。真面目過ぎだろ。なんかこえーし』
それは俺も本当のところはわからないのである。
『お前もあいつら盾にしてよ。先生もお前の肩持つし。スカートめくりとか着替え覗くのとかも邪魔してさぁ。いい子ぶりやがって…』
そりゃだって全員ヒロインなんだぞ?
広義のNTRみたいなもので、それにモブなんていないから止めるだろ、普通。
それにネトラレラのトリガーかもしれないし、例えば覗くってことは他のヒロインも含まれるしそんなのもはや乱行だろう。
まあそれは冗談で、別の思惑もあったが。
というかそもそもなんでそんな事できるんだ。
『こないだだってエロ本燃やすし。せっかく拾ってきたのに女子にバラすし。ひでーよ』
最近の風当たりの強さはこれである。ラレオらは原作と違って男の子してるのだ。
原作ではぼっち気味の性格が多いラレオらも、俺という共通の敵がいることで、恥ずかしいことを分かち合える友を得たのだ。
だが、俺は忘れない。
おっぱい猥談を否定されたことを。
『お前らがマザコンって言ったからだ。俺は忘れてないからな』
『目覚めんのはえーよ! そんなの興味なんてまだなかったのにそんな話するからだろっ!! だから俺は! いや、何でもない…』
『楠木……お前、最近母ちゃん揉んだ?』
『そ、そんなことするわけねーだろ!』
絶対嘘である。
いや、おそらくモエミをラッキーすけべ的に揉んだのだろう。
しかし、こいつもようやく行動に出るくらいの性に目覚めたか。
性を規制し抑圧することにより彼ら達のラレオからの脱却を目指してみたのもあったのだが、一人恨みしか買わないのであった。
◆
『と、ところでさぁ、お前、小夜ちゃんと一緒じゃないのか?』
そんなことを楠木は言ってくるが、どういう意味だろうか。
『さーちゃんは今日はきくか──』
いや、もしかして楠木には菊川とのデートは言ってないのだろうか。いや、今の菊川なら自慢しそうだし知らないって事はないだろう。
でも知らないみたいだ。
バラしていいものだろうか。
そんなことを考えていたら楠木は続けて言った。
『さっきのやつ…アタオカ? だっけ? 女に酷いことするやつなんだろ? お前と一緒で』
『…?』
いや、してないが?
寧ろお前らの方だが?
寧ろいろいろ助けているのだが?
『何不思議そうな顔してんだよ…じゃなくてそいつが小夜ちゃんと出会ったらって心配になるだろ?』
御会が…小夜を…見かける…?
『くっそッ!!』
『あ、おい! デブしん! どこ行くんだ! 小夜ちゃんここにいんのか!』
キセキの世代効果だ! おそらく噂を聞きつけて早くも動き出したのだ!
そうか! 今頃スカートめくりなんて何故だろうと思っていたが、時代を跨いでるのだから当然価値観が違うのだ!
それは間男側もそうだ!
もし軟派行動派と狡猾計画派と恫喝暴力派が手を組んだとしたら!
嘘だろ!
くそっ!
『うぉぉぉおお───ッ!!』
待ってろ小夜ぉぉぉおお!!
そうやって俺は超スピードで駆けた。すると横からパシンと小突かれた。
なんで?
『いや無視すんなよデブしん』
『はぇ?』
軽い感じで楠木が隣を走っていた。
怪我人に余裕で負けているのである。
『はっ、相変わらずトロいな。んでどこに小夜ちゃんいるんだ? 早く教えろよデブし〜ん』
『……』
やはり俺は王子様になんてなれないのであった。
くっそぉぉぉおお──ッ!!
◆
小夜を探す。
そうは言ってもただっ広いモールだ。
正面のツリーに辿り着いた俺たちは、人ごみの中、どうやって探そうかと悩んでいた。
キラキラの場所ばかりだし、どこで御会が見かけたのかわからないのである。
だが、このモールは正面入り口を真ん中に
東西左右に分かれている。
『楠木。西側を任す』
『俺…顔割れてんだけど…』
『…』
そういやそうだ。
ならなんで着いてきたんだ…。
俺は自分の頭を指差した。
『…仕方ない。このマリアージュを貸そう』
『さっきから言ってたマリアージュって帽子のことだったのか……え? もしかしてかぶれって言ってんの?! いや、いらねーよ! 臭いし!』
『臭くねーよ!』
いじめか! 泣くぞコラ! 酷い有様で泣き周囲を味方につけて居た堪れなくさせるぞオメー!
『ちげーよ! 香水だろそれ! 苦手なんだよ!』
そうか…いじめかと思ったじゃないか。しかし割と爽やか系の匂いなのだが。でも買いたてなんだしこっちは匂わな…なんだろう。何か違和感が…いや、今はいい。
『買いたてだから大丈夫』
『いや、脱ぎたてとか普通に嫌だろ…それにどうせ汗びっしょりなんだろ? 気持ち悪いだろ…』
それは確かに。
しかし、あー言えばこーゆーな。
だから子供は嫌なんだ。
時間の無駄使いにかけてはピカイチである。
『そんな事言ってる場合?』
『……しゃーねーか…やだな…デブになったらどうすんだよ…』
どんな因果関係なんだ。
無茶苦茶か。
そもそもそんな簡単にデブになれたら苦労しねーんだよ! それにデブ舐めんなよ! 経済回してる生きた証拠なんだぞッ!
食えよ、増やせよだろ!
何か違う気もするが、痩せろ痩せろって経済回んないだろうがッ!
それに
いや、それデブと関係ないか。
まあそれに俺がこんなこと言ったところで意味なんてないんだが。
楠木は俺の帽子を渋々受け取った。
『それにあいつになんて言えば…うぇ…やっぱり湿ってる…かぶり辛いだろって…お前…その頭…』
そうして俺を見上げ、自慢の金髪に呆けたような顔をした。
『似合う?』
『…それ絶対絡まれるやつだろ…』
はっはっは。
こんな頭カラフル世界でご冗談を。
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