第26話

 そうして俺は考えた。


 お金が掛からず、彼女達がお互いに議論し、発展するようなものといえば、おそらくリモートなどの閉じた場で自室ニーについて語らうなどがいいと思うが、お手軽リモート時代はまだなのだ。


 やはりGINGAさんを軸にこそこそと図書室でレビューし合う、今の形しか思いつかない。


 つまり金がいる。


 しかし、俺にはない。


 そんなことを考えながら、クラスメイト達をぼんやりと眺めていた俺は、いつの間にか無意識に天華をじぃっと見ていたらしい。



『…なんですか?』



 お金、つまり名家である天華に頼ろうかと無意識に思ったのだろう。だが、原作通りならば、彼女はよく出来る姉に比べられて、溜まる鬱屈を払いのけるために頑張っている最中なのだ。


 邪魔は出来ないか…。



『くすくす…人の顔を見てため息を吐くのは失礼ですよ。何かお困りですか?』


『あ、いや…そういうんじゃないんだ。ありがとう。最近はどう? あれから変わった?』


『…まあ、そうですね。調子は良いですよ。この分なら、綾小路さんといい勝負ができます』


『そっか。それは、良かっ、た…』



 やべ…無意識にセクハラしてた。


 というか、彼女もフナムシシステムに気づいているのだろうか。謎技術の洗礼を浴びたのだろうか。


 今は何と言えばいいのか、角が取れて凪のように穏やかだ。


 そうして苦笑いしながら少し話をしていたら、そこに小夜が割って入ってきた。



『しんちゃん! …スポーツ大会、小夜の応援するよね?』


『うん。もちろんするよ。でも天華も頑張ってるってさ。嬉しいだろ?』


『…いつの間に下の名前で呼んでるの…かしら…?』



 近い近い熱い。両肩を持つな。



『僕の話聞いてた?』


『答えてからじゃないかしら?』


『はあ…先に言ったのになんでなぉッ?!』



 痛い痛い痛い! お前の出力は半端ないんだよ! 強つよ女は必ずワカラセられる記号なんだよ! エロ漫画世界における邪神の悪意の意図なんだよ! 心もざわつくからやめろ!


 肩からなんとか引き剥がしたがしつこいのである。


 ギリギリと両手で掴み合う俺達を、ギリリと歯を食い縛った表情でラレオ達が見ているようで怖い。


 また呼び出しくらうじゃないか…。



『綾小路さん。彼は私に道を照らしてくれただけですよ。次は負けません』



 天華は凛としてそんなことを言った。


 道というか顔がつやつやである。


 絶対昨日使ったなこいつ。


 なぜならその姿は賢者ではなく、まるで極上の戦士のようだったのだ。


 心なしか頬が熱っているように見えるし、正直推せる。


 あんな家庭環境で…尊敬しかない。


 いや、そうだよな。


 つまり今まさに彼女は頑張ってる最中なのだ。


 流石に頼れない。


 何より小学生なのだ。力無き子供なのだ。たとえ唆してお金を引っ張ったとしても、バレれば彼女の評価を下げるだけで、そんなことは天秤にはかけられない。


 それに元の目的からは外れていくだろうから駄目だなと、俺は諦めた。





 ならば俺にあるのはなんだ?


 このヒョロガリの身体くらいか?


 そんなもの、当たり前だが臓器売るくらいしか思いつかないのである。


 いやいや、売ってどうする。


 足したいのに引いてどうする。


 もっとヒョロガリになるじゃないか。


 第一、伝もないし親父殿にも慎一郎氏にも申し訳が立たないからなしだ。


 ならばこの転生前の知識──ネトラレラ達の性癖や間男の攻略チートとも言うべき開発方法をラレオに売るか?


 いやいや、売ってどうする。


 小学生に人と性を売ってどうする。


 いや、そこは否定できないのか…。


 駄目だ。ろくな考えしか思いつかない。


 ではむっつりどすけべ三人衆に直接伝えてみてはどうだろうか。


 いやいや、女の子同士のネットワークは怖い。それに猥談は結構キツいと聞いたことがあるからなしだ。


 それに何故そんなにもウィークポイントを的確に分かるんだと必ずや思われるだろうし、限界痴態を知っているとはいえ、男はいくつになったって聖女信仰を手放せないものなのだ。


 いや…そうか。


 間男はある意味聖女信仰を否定するメタファーとしての存在で、「あいつらもやることやってんだよ」「いやそんな事あいつが…あんなに自分から…嘘だ…」という夢を抱く男の幻想を打ち砕く現実主義の剣、いや限界をぶち抜く槍だったのだ。


 前世の俺がNTR漫画が好きなのは、清楚な美少女という聖女信仰を信じるがゆえ否定し、現実ってこんなものだよなと、どこか納得して安心したかったのかもしれないな…。



『……』



 いやいやいや、違うのだ。


 そうじゃないのだ。


 今はむっつりどすけべな彼女達だ。


 俺はあくまで彼女達とは直接的に関わらないようにしたいのだ。


 例えば今回のように、彼女達に代わって、GINGAとの危ない架け橋を渡るのが目標なのだ。


 R指定はなんとかするとして、やはり金がいる。





 だから俺は血流が逆流するくらい考えに考えてみたのだがやはり思いつかない。


 我が家は平均年収から少し下がるくらいであり、それも倹約を重ねてようやくといった具合なのだ。資産もないしローンしかないのだ。


 だが、考えに考え続けた結果、ようやく一つのおかしな違和感に辿り着いたのだ。


 それはTVであった。


 この世界が元の世界をパクっていると言ったのを覚えているだろうか。


 エロ漫画世界とはいえ、ここは異世界みたいなものだと思い、あの転生した日からいろいろと調べたのは以前言ったとおりである。


 俺が知らなかったミクロな話は、小夜の無邪気(白目ジョジョバー)みたいに描かれてなかっただけかもと一応は納得していて、そこから深く考えなかったのだ。


 だが何気なくTVを見ていた時に、はたと気づいたのだ。


 ああ、そういえばこんな事件あったなと。


 この後こうなるんだよなと。


 …ん?


 こうなる…?


 そうだ。


 なぜこんなことに気づかなかったのだ。


 リモート社会の訪れなんて、なぜか知っているのだ。


 つまり社会では、今後同じ事が起こるのではないかとようやく気づいたのだ。


 俺の享年はともかく、大雑把だが、原作の慎一郎氏の歳である17引く転生歳の6。


 つまり、原作の11年前の世界をパクっているという事実に、別の意味を見出したのだ。


 つまりこれは、やり直しリベンジができるのではないだろうか。


 他人の人生なのだが、いけるのではないだろうか…!


 そうして俺はやったのだ。


 誰しもが過去に戻ったらこうできるのになと思うことを、やってしまったのだ。


 そう、禁忌の転生チート魔法、キャピタルゲインである。

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