第25話
あれはちょうどマッサージ機をばら撒き、今は懐かしい無邪気な小夜に問い詰められる少し前だった──
◆
『おかしい…』
マッサージ機を渡したのに、あれから何もリアクションがないのだ。
誰あろう、
唯一あったのはちゃんと下の名前で呼びなさいと、そんなたった一言であった。そんなどうでもいい話しかなかったのだ。
俺は間違ったのだろうか?
いや、間違ってないはずだ。
あれからクラスの雰囲気は規律が生まれたと言えばいいのか、少し静まった気がする。
おそらく天華のプライベートが満たされ、女子たちを律したのだと思われる。
ならば、次の手である。
天華のような生徒会長系ネトラレラ以外にも、神んてらにむっつりどすけべの業を背負わされた女の子達はこのクラスにまだいるのだ。
NTR漫画に理解のある紳士諸兄方ならご存知だとは思うが、お堅い真面目系──風紀委員長や図書委員。クラス委員長に部活主将と聞けば、「それな」と納得するのではないだろうか。
規律や道徳の対比としてなのか、結構な好きもの揃いなのである。
見た目お堅いネトラレラ達は、原作において小学生低学年時にはもう机の角や枕などのクッションのヘリ、文房具はマスターしていた。
それを悪いことだと思い込み、ひた隠しにするのだが、ある者は規律によって自分を律し、またある者は部活などで身体を動かし発散するのだ。
だが、高校二年のある日の夕暮れ、部室や教室などで、幼馴染への重い想いが高まっての自慰、つまり運命の分岐路である放課後ディスティニーをぶちかまし、間男に見つかってしまうのだ。
今はいつも幼馴染達の不甲斐ないフニャ顔に、取り付く島も無いくらいにイライラとしていらっしゃる。
そこは小学生だし、仕方ないにしても、澄ました態度の天華とは違ってそこそこのネトラレラ力だと言わざるを得ない。
まあ、そんな風だから、おそらく世界の強制力で、シモはもう大変なことになっているだろうと俺は予測を立てたのだ。
ちなみにそれ以外にも部活頑張り屋さん系どすけべもある。だいたいは剣道と書道、バレーボールと水泳が挙げられ、テニスは解釈違い、チアやマネージャーは野球が正義といったところだろうか。異論は認める。
『花岡くん。ちょっと良いですか?』
そう呼び止められたのは、二年生の頃だっただろうか。
天華に配った後、モエミに頼んで他にも配ったのだが、やはり何の音沙汰もなかったのだ。
小夜にバレそうな時もなんとか誤魔化し、親父殿の結婚も終え、家族が増えた環境に少しだけ違和感が取れてきた、そんなある日のことだった。
突然家庭科室前に呼び出されたのだ。
将来的に図書室の君になる雨ノ
正直この子達の物語はそこまで俺には響かなかったからか、あまり覚えていない。
とりあえず読み切りでサクっと快楽堕ちだったと思う。
強く印象に残っているのは、性格というか設定で、どすけべなのに貞操観念は非常に高く、致したからには添い遂げねばと、チャラ男に捨てられたくないと、自らをよりどすけべに昇華させていき、ついにはラレオの前で肉体関係を示唆するような発言でBSSをぶちかますということだった。
代表してなのか、「曇りガラスの向こう側は」の曇らすメガネのエロミ、いや裕美が意を決したかのようにして、ずいと前に出てきて言った。
『これ…壊してしまって…ごめんなさい』
『いや、気にしなく、て……いい、よ…?』
…え? …何だこれ…?
それは俺がばら撒いたマッサージ機、だったのだが、様子がおかしいのだ。
何と言えばいいのか、縦半分にぱかりと綺麗に割れていて、どちらもカブトガニの裏面みたいな感じで、使い古した歯ブラシといった具合なのだが…。
いや、違うな。
まるで小さめのフナムシである。
え、こっわ。
何これこっわ。
待って待って。これもしかしてシャカシャカ動くの? 走り出すの? 遠隔操作ってラジコンって意味? そゆこと? どゆこと??
機械は機械なのだが、脚は柔らかいプラっぽいというか。
ただのピンクなローターかと思いきや何だこの謎技術は…こんなもので頑張りマメを頑張ったらいったいどうなってしまうのか…。
GINGAさんは何を考えてるんだ…。
こんなの絶対頭おかしくなるだろう。
驚愕の表情をしていた俺に、「その炎が燃え盛る前に」の、キンキンに硬いのがお好きな火憐が焦ったかのようにして裕美を押しのけ言ってくる。
彼女は部活のない日は火がついたかのように幼馴染を思って自室ニーをかますネトラレラなのだ。
神聖な剣道場で竹刀をあんな風に使って猛り狂ってはいけないのである。
そりゃ見つかるって。
『すまない! 少し…頑張り、過ぎてしまった…本当にすまない…!』
『い、いや、うん。あはは、は、はは、気にしないでよ…』
彼女が差し出してきたのも、裕美と概ね同様であった。
気にしないでいいが、気になって仕方がない。
え? 使った…?
こんな奇怪な機械を壊すくらい頑張った??
マジかよ…。
頭絶対おかしいって…。
いや、これはこの世界の過剰さゆえなのか…?
値段も手頃だったし、絵面だけで適当にすぐ買うボタンをポチったのだが、あんなものどれも同じだと思っていた。
パッケージは流石にプレゼントなのだ。当然の如く安心包装してもらっていたから全然知らなかった。
冷や汗を掻く俺に、原作での小学生時代では、クラスメイトに根暗と呼ばれるくらい図書室でお澄まししていたのに、ネトラレラの時は大雨洪水はもちろんのこと警報も斯くやといった様子で全然静かじゃない「図書室は曇りのち雨」の静香が言ってきた。
結構タイトル覚えている自身にまあまあドン引きしているのだが、手遅れであった。
『二人ともその前にちゃんと聞かないとですよ。花岡くん。これはその…そういう意味ですよね?』
『へ? ああ、うん。そうだよ』
そういうがどういう意味かわからないほど俺は鈍感ではないのである。
不安そうな顔で俺を見る彼女達の気持ちは痛いほどわかる。
俺の前世は、おそらく彼女達と同じオンリーロンリー自慰ニスト。
何の因果か、こんなオムニバスに乗り合っていて、謂わば世代と世界と次元を超えて繋がった同好の同志であり同級生なのだ。
気分はパーティ結成で、俺がつまりギルマスなのである。
最低の帰結なのはわかっているが、限界痴態の罪悪感から、気に入ったのなら何とかしてあげたいのだ。
だが、流石に二個目の購入は親父殿にバレてしまう。
壊れた今回の分は、天華用に探していた時のSEKITOBA購入ポイントと初回入会キャンペーンを活用したから五個も手に入れられたのだ。
先勃…いや先立つものがないとどうしようもないのである。
ここは諦めてもらうしかないか…。
いや…だが……だが、いかに読み切りとはいえ、俺は覚えてる。
『──か、彼? な、何も…なかったわ』
『──そ、それならいいんだ』
『──それならいいって…何が…?』
『──何でもっ! …ないよ…』
『──そっか。…今日は先に帰るね』
『──はぁ…また言えなかったな…』
幼馴染のもたらすじれた不安と間男間が放つ快楽の狭間に揺れ動く彼女達を。
『──え…あいつと…? 何にもなかったって言ってたじゃないかっ!』
『──うん。だからごめんね? もう遅いの』
その手遅れな告白に、悲しみを隠すかのようにして、小さくはにかんだその姿を。
『──ほら早く行くぞ。今日は遅くなるって言っとけよ?』
『──はい。でも今日は優しくしてくださいね? 先輩はいつも激しいですから…』
『──なッ…』
『──はは、何言ってんだ。やめんなって言ってんのお前だろ。びしょびしょで片付け大変なんだからな』
『──そ、そうですけど! ふふっ…』
そう間男と話しながら絶句するラレオの顔を、チラ見もせずに歩き去るラストだ。
だが、だが読者視点では少しだけ、ほんの少しだけ目線を動かして悲しい顔をし、内心でさよならするのだ。
その時の原作静香の顔と、今の彼女達の顔が何故か重なって仕方がない。
これは俺の業が見せるただの妄想でしかないのかもしれないが、曇らせるわけにはいかないと、見たくないなと思ったのだ。
あるいは俺の未来を重ねているだけなのかもしれない。
だってあんな物語にわざわざせずとも、ハッピーエンドであってもいいじゃないか…!
世の中暗くて滅入りそうなのに、せめてシリアスに抵抗したいじゃあないかッ…!
なあ、神んてら…いや、邪神んてらよッ!!
『ぐすっ、はは…ごめん、なんか嬉しいんだ…』
そうだ。彼女達はついに趣味を話し合える生涯の友を得たのだ。
心の壁が高いとも言える彼女達は、相談し合える友人さえいればあんなディスティニーをお外でぶちかますことはなかっただろうなと、前世の俺が思っていたことだったのだ。
だからこの時俺は心に決めたのだ。
『だから、だから少しだけ待っててよっ!』
この子達のために、より強い快楽耐性を身につけさせ、必ずや…必ずやラレオらを逆に襲わせてやるとなッッ!
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