第15話

 ラレオら。


 それは、俺がお邪魔している慎一郎氏のように、いわゆるヒョロガリ陰キャぼっちばかりではない。


 タイミングやすれ違いによって結果的に優しいだけの男扱いになってしまうだけの悲しい男前達もいるのである。


 神んてらの世界の、ラレオられるとはいえ主人公なのだ。顔は決して悪くないのであって、少しキツい言い方に聞こえるかもしれないが、悪いのはタイミングか、だいたいは内向的な性格のせいなのである。


 敢えて言うなら見た目一番損しているのは吾輩だけなのである。


 いったいなぜ俺にそんな業まで背負わせるのか。


 いや、慎一郎氏だとこの難局は乗り切れまい。


 だからこれでいいのだ。


 それにそれは仕方ないとしても、その両方を兼ね備えたラレオも中には居て、それがBSS系ラレオなのである。


 広義の意味ではネトラレに該当するらしいのだが、俺は認めていない。


 

『花岡くんはさぁ、綾小路さんが地上に初めて舞い降りた瞬間を見たんだよね?』


『引っ越しな』



 こうやってえんがちょを無視しながら話しかけてきたのは、ラレオの中でもそんな軟弱BSS系の一人だった。


 告白するのになんだかんだ理由付けが必要なタイプで、幾を見過ぎて見逃して、気づいたら呆気なくやられちゃっているという後手告白パターンの男であり、「少し遅かったな…」と自室のベッドで後悔しているちょうどその時に、ネトラレラはようやく失恋を受け入れて性に埋没してアンアン言ってるといった具合で、それを周りから後日聞いちゃって拗らせちゃうタイプである。


 名前? こいつにはいらねー。


 普通に男前になりそうだし。


 おそらくその元々の性格のヤワさから、今の小夜人気の中、自分のポジションに不満というか、不安を抱き、敵認定している俺にすら縋ろうとしているのだろう。


 そうして俺にアプローチして欲しいのだろう。


 嫌いな俺であっても利用しようというその魂胆には関心するが、それならば何故あの二ノ宮木苺にのみや きいちごが「女の子として見てもらえてないのかな…」なんて他校のイケメンに相談したカラオケルームで悲しいキスを奪われなければならないのだ。


 俺はこういう理屈を捏ねて不正解を引き当ててしまうタイプは嫌いなのだ。


 何故かはわからないが。


 何故かはわからないがッ。



『ここだけの話、綾小路さんが僕にだけ! 教えてくれたんだけど、お互い部屋が近いん…だって?』


『窓もカーテンもいつも締まってるぞ』



 その質問の後はだいたい「オメー覗いてんだろ?」である。


 というかもうお前で三人目なんだが……なぜにそんな事をするのかなんてわかってる。


 間違いなく俺への嫌がらせである。


 一昨日の最後のクッキーをまだ根に持っているなんて、宝石の名が泣くのである。


 アイドルの裏側はやはり見るべきではなく妄想で楽しむに限るのだと、転生して実感した真理だった。


 しかし、彼らを見て原作を思い出してみるとやはりBSS狙いが一番ダメージが少なそうだよな…。



『覗いてるんだろう?』


『そんなことしないぞ』


『嘘を吐くと碌な大人にならないよ?』



 それはあいつに言えやオメー。このお前との問答これで5回目だぞ。しつこいのとすぐ忘れるのが子供のウリとはいえ、こっちにだって限界と限度がある。


 だんだんと腹が立ってきたな…。



『さーちゃん』


『何、しんちゃん』



 ちょうど俺の前を、何人かのラレオを侍らせながら通りかかる小夜がいたから呼び止めた。


 わたしまだ怒ってますけどぉ? みたいな態度もムカつくな。


 だいたい28枚あったバタークッキーのその半分食べたのお前だろうが。両親にも分けろよ、このすっとこどっこい。


 それにお前は何を一人乙女ゲーしてるのだ。それは流石にないだろうけど小学生同士だし友達感覚なんだろうが、ラレオらの目よ。


 ちゃんと濁ってんだろ、気づけよ。


 それに人数多いから机当たってずりずりとズレるのも腹立つし…お腹空くし…イライラするんだが。



『早く言ってよ。昼休み無くなるじゃない』


『…今夜部屋の窓開けて待ってろ』


『…えっ? …なんで、ですか…?』


『覗くからだよ!!』


『…しんちゃんさいてー。ぷいっ』



 このアマァ…ぷいってオノマトペか何かようわからん言語を口に出すんじゃねー…ん? 何? 何ごと? ラレオらがジワジワ近寄ってくるんだが? お前ら全然関係無いんだが?



『花岡、ちょっとこっちこいよ』



 そう言われて俺は校舎裏に連行されたのだ。


 今時の小学生は怖いのである。



 

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