第13話
エロ漫画。
それは春画が発展したのではなく、かつてあったという劇画ブームからスタートしたコンテンツである。
徹底的に現実を模写し、いや、現実をより生々しく表現しようとしたのだろう。
あるいは、憧れであるコミック誌掲載への足掻きだったのか、はたまた反逆だったのか。
いつしかそれは一つの文化にまで成長したのだ。
現実でもなくAVでもなくエロゲでもないこのコンテンツは、動かない静止画であるというデメリットにより衰退を余儀なくされるだろうと感じるかもしれないが、そんな事はない。
表現において他よりも圧倒的に優れた点があるのだ。
それは「過剰さ」である。
この一点において他の追随を許さないのがエロ漫画なのである。
例えばおっぱいはどうだろうか。
エロ漫画=おっぱいと言ってもいいくらい、神々は苦心して描いてきたのだ。
しかし、エロ漫画が生まれた当時の美少女といえば、意外に思うかもしれないが貧乳が当たり前だったのだ。
何せ美しいとはいえ、まだ少女なのだ。
ロリであり、蕾なのだ。
おっぱいデッカい=大人が当たり前であり、その価値観からいくら倫理を犯す神々とはいえ、長く抜け出せなかったのだが、それは子供の顔に大人の身体の歪さというある種の気持ち悪さが、受け入れられなかったせいだろう。
だが、ある一柱の神がある挑戦をしたのだ。
もっともっと伝えたいと。青少年達を奮い立たせたいと描いたのだ。
それが巨乳である。
今までの抑圧から解放された神々の間で瞬く間に広がり、ついには民草の間でロリと結びつくまでに至ったのだ。
巨乳という言葉は、今でこそ当たり前であり、超乳なんて表現すら珍しくない風潮だが、発祥はエロ漫画なのだ。
これは現実に作用した一例である。
ちなみにこの話には続きがある。神々は悩んだのだ。
創造したのは良いものの、静止画ゆえの躍動感が足りないと。
もっともっとナニを奮い立たせたいと。
そうして産まれたのが、テールランプがごとく時間を残す手法、乳首残像であったりするのだ。
そんな絵としての表現だけに留まらず、いわゆる「らめぇ」や「くぱぁ」、「んほぉ」などと言った、言葉と行動を結びつけて表現するという創造までしてしまったのだ。
それがまた現実にまで影響を及ぼすようになり、業の深い「アヘ顔ダブルピース」なんてものまで産まれていったのだ。
まだたかだか50年ほどの歴史の上ではあるものの、今もなお進化を続けていて、そうした中産まれたのが、この世界の神、んてらなのである。
エロ漫画は、多種多様、多品目生産、多職種構成と星の数ほど煌めいてはいるが、その実、言ってしまえば必ずえちちが起こるだけなのである。
つまり、そこに至るルートこそが神々による腕の見せ所なのだ。
そう、俺は勘違いしていたのだ。
神んてらの描く世界の厳しさを、歪さを、怖さを。頭ではわかった気になって、ある意味能天気に眺めていたのだと思うのだ。
つまり何が言いたいのかと言うとである。
俺、信者やめるから誰かタスケテ。
迷える子羊の、切なる願いである。
◆
『情け無いと思わないの? このすっとこどっこい』
『なんで荒ぶってんのさ…』
『あら? こんなに近くて遠いこの距離でもわからないのかしら?』
『いや、遠くないでしょ』
今俺は自室の窓越しに小夜と話していた。
たまにこういうことを強要してくるのだが、過去描写のトキメキを返して欲しくて大人しく従っていた。
流れる髪が風に素敵で、こいつの仕打ちを許してしまうくらいには癒されるのだ。
しかし、相変わらずカーテンは閉められていて、本人そのつもりなくとも俺を煽ってくるのでお腹が空く。
それはそれとして、今日の議題は何故俺の足が遅いかである。
体育での駆けっこは頑張ったのだが、結果はビリであった。
それが小夜には納得がいかないらしい。
人は頭の良い奴がいれば足の遅いやつもいるのが当たり前だと思うのだが、デキるやつは自分が出来れば他人も出来ると思い込んでいることが多いのだ。
俺はこれを脳筋教と呼んでいる。
勝ち負けが既に存在するのだから、当たり前に当然の帰結なのである。努力とスペックは必ずしも結果を一致させないし、人の歩みに個体差はあるのだと偉い人にはわからんのです。
それに今はカロリーを蓄える雌伏の時なのだ。
たかだか一年くらいでは結果は出ないのである。
『あんなにやさしく! 教えてあげたのに』
『…』
ここはこう、あそこではこうなんてのは、教えではないのである。
それに手間取る俺に手取り足取りするものだからますます子羊達が牙を剥きつつあるではないか。
そしてそれを見たネトラレラ達がまたギスギスし出す始末は、まさに負のスパイラル。
そもそもが足の長さも腕の長さも違うのだ。基本スペックが違い過ぎて議論にすらならないことに小夜含めた小学生は気付けないのだ。
ちなみに小夜が急速に巨乳化する中学でタイムが落ちるのは知っているし、可愛らしく八つ当たりする未来も見えている。
慎一郎氏は少し喜んでる節があったのだが、俺は嫌なのである。
このアマいつかぜってーぶちのメス。
『──ねぇ、聞いてるの? なんでまたアメもらったの? わたし言ったよね?』
『言ってた言ってた』
何のことかわからないが何か言ってた。
女の子特有の症状なのか、議論があっちこっちに飛んでいくのだ。そこにしつこさが加わるとこちらとしては流石に辟易としてくるので、冒頭は貝になるに限る。
子供なんて特に後に言われことしか覚えれないし、最初のことなんて何言われたか忘れてしまうものなのだ。
つまり小夜とて例外ではない。
いい加減結論が欲しいが、まだまだ言わせておこう。
そうしないとお風呂がえらいことになるのだ。
そろそろ綾小路夫妻に真実を伝えるべきだろうか。
その場合、婚約者認定され、幼い頃の結婚の約束よりキツい未来になりそうで怖くてたまらないので打ち明ける勇気がないのだが。
それよりも今はクラスメイトである。一応はマル秘ノートに書き出してみたが、他の物語のあらすじやエンディングはだいたい覚えてはいるのに、他の幼馴染同士の馴れ初めは薄らとしか覚えてないのだ。
『それに比べてくすの…大地くんはさぁ』
『ああ、速かった』
それもそのはず、楠木大地は中学で陸上部に入るのだ。高校生になってからマネージャーとしてモエミも入り、同じ部活仲間として青春を送るのである。
それからしばらくして付き合うことになり、高校二年生の時、部室でイチャコラしているところをむくつけきコーチに見つかり、大学推薦の話を盾にされ…関係を持つ。
だが話はそこで終わらない。そのNTR現場を大地の実力を羨む同級生にも見つかり……遂には大地にまで…後は前回言った通りである。
『むー。またそんな顔して…小夜が話してるのに』
『何か言った?』
『…先生いっつも見てるし』
また話が飛んだのである。確かに見ているが、それはエロ漫画特有のある兆候が無いかである。
そう、バイブスがやべえである。
流石にいたいけな子供達の前でそんな暴挙は起こさないとは思いたいが、ここは神の世界である。
んてらは割と現実に即したエロ漫画を描いていたとはいえ、神は神。信じてはいけな……いや寧ろ信じてるからこそタチが悪い。
それにそもそも倫理や道徳を装備していてはこんな世界は描けないし、一寸先はナニが広がっているのがわからないのがエロ漫画なのだ。
流石に触手や催眠なんてものはないと思うが……。
いや、例えあったとしても、親父殿のために必ず証拠を見つけてやる。全校集会で見たあの色黒ムキムキな教頭辺りが怪しい気がするのだ。
『そりゃあ先生だし』
『そんな変な顔して何言ってるの?』
『誰が不細工か』
『…はぁ…もぉ、バカ。しんちゃんなんて知らない』
そう言って、対話の窓は閉められた。
何プリプリしてやがんだオメー。
『はぁ……どうせならエロゲが良かったな…』
そもそもこの世界を上手く生きるためにはプレイヤーでなくてはならず、ただの傍観者だった俺には荷が重過ぎるのだ。
やっぱ人選ミスだろう。
ゲームみたいに小学生時代はスキップし、それが出来なくともせめて選択肢が欲しい。
ヒョロガリには辛いのである。
いや、そうか…一つ親父殿に頼んでみるか。
しかし、小夜は何故いつもカーテンは開けず下にドロンするのだろうか。
謎である。
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