第12話
夏休みが明け、クラスに顔を出すとすぐに小夜の元にみんなが集まっていった。
「綾小路さん」「さよちゃん」の嵐である。当然俺は弾き出されたのだが、さもありなん。
やはり彼女は見せつけたのだ。
ネトラレラの宝石たるその実力を。
体育や運動会ではその凛とした勇姿を。
音楽や合唱フェスティバルの練習ではその清らかな美声を。
小1の癖に、まさにアイドルも斯くやと言った有様で、将来優しいだけが取り柄の男の子になる、その哀れな子羊達を至極の輝きで虜にしていったのだ。
各ネトラレラ達も、当たり前だがスペックの高い子が多いのに、である。
18禁漫画を跨いでいるので、本来比べられるわけはないのだ。だからこそ、んてら教徒の間でも一番は誰だと議論が起きていたのである。
ふっ、それがどうだ?
やはりこの輝きよ。
推しが人気だと普通に嬉しいのである。
ただ今のあいつイカレポンチだから複雑である。
おそらく無邪気→恋→清楚→カップル→寝取られ→愛→ネトラレラ! と変わっていくのだろうが早くクラスチェンジしてくれないと俺の中の何かが目覚めそうで怖いのである。
だがそれより目下の悩みは、その小夜が他に14ある物語の内容を滅茶苦茶に侵しそうな事なのだ。
神んてらの描く過去描写、そのどれもをこのままでは完全駆逐してしまうのではないかと危惧するくらいに人気なのだ。
神んてらは、慎一郎と小夜の求めるもののすれ違いと同様に、幼馴染達二人の小学校秘話をトリガーにしてNTRに走らせることが多い。
だから良い事だとは思うのだが。
例えば俺達が乗るであろう初恋発NTR行きのバスで考えてみれば、最終的に裏切るネトラレラ達に優しいだけが取り柄──長いな。ラレオでいいか──ラレオ達が乗車拒否しているようにも見えるし、小夜がその悪夢バスをノリのいいバスガイドさんが如く仕切って自身のバスへと乗車を促しているようにも見える。
他のネトラレラ達が逆NTRジャックに走る動機になりそうにも見えてくるし、ざまおによるバスガス爆発で集団BSSなんてものになりそうにも見えてくるのだ。
このままでは、前世の知識なんて全然役に立たなくなるのだ。
それに、最初は衝撃過ぎてあまり気が回らなかったのだが、気づけばこのクラス内の力関係というか、幼馴染関係も変容していたのだ。
クラス男子達の初恋もまだだとは思うのだが…親父殿のこともあるし、お腹が空くのである。
『変な顔してどうしたの?』
『顔の体操でやんす』
『なぁにそれ。わ、変わった! ふふっ、おはよう慎一郎くん』
『おはよ。ハギー』
幼馴染系ネトラレラ達は俺の適当な返しも暖かく迎えてくれるくらい、基本優しい。
超可愛いクラスメイト達がここにはなんと15人もいて、今はまだちんちくりんなのだが、やはり主役級の輝きをみんなみんな持っているのだ。
ツンデレ系や気弱系、ドジっ子系に男まさり系、根暗高校デビュー系などいろんなタイプがいるのだが、総じてみんな根は優しい。
男の子達と違い、ジョンジョバーな俺にも優しく接してくれるのだ。
その優しさがだいたい仇になってしまうくらい馬鹿みたいに優しいはずなのだが、番とギスギスしているように見えるのは気のせいだろうか。
『夏休みどこか行ったの?』
『俺はさーちゃん家に遊園地連れて行ってもらったぞ』
『ふぅん…それより何度か言ってるんだけど、ハギーってやめてくれないかな?』
『わかったぞ。モエミ嬢』
『いきなり呼び捨ては……じょう?』
『間違えた』
薄い緑のボブカットの癖っ毛に銀縁丸眼鏡がチャームポイントの、おっとりした口調の可愛いらしい女の子である。
だが、最終的にはニ×べ×キと呼ばれるくらい誰とでも寝るようなビッチと化すネトラレラであり、間違えた通り将来はいわゆる売れっ子嬢である。
読者は、はいはい、襲われてからの泣き寝入り逃避的快楽堕ちかよ、と思っていたのだが見事に裏切られ、中でも主人公を人間不信へ追い込むビデオレターを送り続けるその極悪非道っぷりに震えたのだ。
「な、何…?」
今はニコニコして、とても優しくて可愛いらしいこの子が……そんな未来に絶句してお腹が空くのである。
『…くすくす。はい、慎一郎くん、アメちゃん』
『学校には持ってきちゃ駄目でいただきます』
『ふふ、それどっちなの』
どっちも何もないのである。
頭おかしいよ、この世界、である。
正直なところ、俺は快楽堕ちはともかくビッチ化や追い込み行脚は好きではないのだ。
例え馴れ初めが最悪だとしても、例えその瞬間だけの仮初なのだとしても、ネトラレラ達には、真実の愛を見つけたからこそ主人公を裏切ったのだと自己を正当化して欲しいのだ。
だが、それはそれ。これはこれである。
将来受けるであろうリスクを、このまま放置しておくのは人としてどうなのか。
だからこそ幼馴染どもの相談役に回ろうと苦心しているのだが、ラレオらからは総スカンである。
こいつらもおねしょくらいしてるだろうに。
しかもモエミの心のバス停たるラレオも、当然のごとく、今や小夜にご執心なのだ。
いや、その方がラレオを救えるのはわかっている。
しかし、どうしたものか。
ここ数ヶ月の悩みがこれである。
『お。お漏らしコンビじゃん。相変わらず仲良いな。ヒューヒュー』
『大地くん! それやめてって言ってるでしょ! ほんとしつこいんだから!』
『おーこわ。小夜ちゃん久しぶり〜おはよ〜!』
そう言って小夜の元に向かった男こそ、「君のその絶望が見たくて」のネトラレラ、モエミの番、楠木大地であり、それはどこまでも壊れていく二人の物語であった。
だが、それはNTR後であって、今みたいにモエミに対して意地悪く言ったりなど決してしない、少しおバカだが優しいだけのラレオだったはずなのだ。
『…わたしなんかと一緒はいやだよね…』
『全然嫌じゃないぞ。それよりもうあと一個…いや三個アメおくれ』
なのに子羊達はまるで狼へと変貌しようとしているように、どうにも見えてくるのだ。
どうしてこうなった。
頭痛が痛くて糖が全然足りないのである。
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