第11話
山之内理佐。
神んてら作、人妻◯◯シリーズのネトラレラである。
人妻理佐の苦悩から始まり、不貞、陥落、陥落2、欲望、欲望2、欲望3、追憶、そして結末であるリーサ誕生まで、それらをまとめた「人妻リーサのNTRコレクション」の山之内理佐である。
内容はよくある夫の上司との不倫話である。
世も末である。
出張の多い夫の留守にじわじわと上司が距離をつめ、ついにというか比較的早く襲われる。だというのに、心優しい理佐は夫に黙ってますからあなたも忘れてくださいと上司を許すのだ。
普通に警察に行けと誰しもが思うのだが、そんなこと言ったら物語は始まらないのである。
いろんな意味で味をしめた上司は夫に出張を意図的に仕掛け、寝取りに動き出すのだ。
理佐も夫にバレたくない恐怖がじくじくした胎の疼きに変わり、誘いに耐えられなくなり、夫しか知らなかった理佐は次第に……後は言わずもがなである。
最終的に、罪悪感と快楽に挟まれ苦悩する理佐は、過去の男性恐怖症の反動からか、これは別人格リーサなのだと自己暗示をかけるのだ。
そして夫も上司も快楽の為の道具にするのだと笑うラストである。
だが、作中の見せ場、陥落2におけるNTR最中の電話シーンが俺は好きなのだ。
嘘と本音、罪悪感と恥じらいと戸惑いと快楽が入り混じるなんて、なんて、なんて……興奮する。
俺も末である。
正直なところ、神んてらの人妻◯◯シリーズは他にも何作かあるが、おそらく幼馴染ほど何かされた訳ではないと推測できるくらい内容が似通っていて、恐ろしいくらい評価が高くないのである。
だが、俺的には人妻ものならリーサシリーズが一番好きなのである。
しかし、それはそれ、これはこれである。
まだそのエロ漫画世界のリーサかどうかわからないが、彼女が我が愛しき親父殿とお付き合いしてる…だと…?
そんなの断固絶対反対である。
『先生は独身?』
『そうだよ。でも…実はバツ1なの。ああ、えっと…バツ1っていうのはね──』
『慎くん、理佐さんは独身だよ。気にしないでくれ』
『いえ、いいんです…気になるのは当たり前ですから…』
『理佐さん…こら、慎くん。いきなり失礼じゃないか』
『……』
いや、そうじゃないのである。
バツ1…つまり、夫である山之内翔太とは別れ、でも上司の岸田耕平とも付き合わなかった…?
いや、それならば山之内なのはおかしいが、神んてらの名付け癖的におかしくはないのか……やはり別物語なのだろうか。
いや…すでにリーサに覚醒済みなのではないか?
夫と岸田だけに飽き足らず、ついに外に狩りに出たのではないのか? 俗に言うママ活じゃないのか?
『先生、それは伊達眼鏡?』
『え? あ、うん、そうなの。よくわかったね』
そう言いながら彼女は大きくて丸い眼鏡を外した。
少しウェーブがかった黒髪は、肩口くらいに切り揃えられていて、艶やかな光を宿し流れている。母性に溢れたタレ目の下の泣き黒子に、すっとした鼻筋。その下にはぷっくりとした桜色の唇。何より一際目を引く大きな垂れ下がるバスト。肉感が衣服の下からでも感じ取れるくらいの色っぽさと、押せばなんだかいけそうな気がするー雰囲気。
いや…やはりこの人は間違いなくネトラレラ、人妻リーサだ。
フェロモンとか色が着いて漂ってそうである。
学校ではあの悪夢のせいで、なかなか先生までは気が回らなかったし、仮にそうだとしても、所詮は俺と関係のない話だと思って考えないようにしていたのだが…親父殿と、か。
いや、そもそもメガネを掛ける必要があったのか…?
『私ね、すっごく恥ずかしがり屋で…みんなの前でも緊張しちゃって…ね…』
嘘である。
この人、玄関とか鏡の前とかベランダとかが実は一番好きなのである。
『慎くんは、反対かい?』
いや、今は親父殿のことである。交際宣言ということはこの後は…結婚…だろうか。
見たところ指輪はしていないし、日焼け痕もない。
確かに親父殿の幸せは願ったのだが…翔太とも岸田ともちゃんと切れているのだろうか。
それともこれもやはり別の話だろうか。
ん…? ここ数ヶ月なかなか遅い帰りはもしかしてもしかする?
この夏休み、ずるむけに躾られたしんちゃんって間接的に親父殿のせいではあるまいか?
『…父ちゃん、先生愛してる?』
『え?! あ、ああ、うん…そうなんだよ。はは、なんだか照れるな…』
『雄大さん…ふふっ、嬉しいです…』
くっ…! そんな可愛いく照れた顔されたら拒否できないじゃないか…。
確かにこの人、原作通りならスペックはまあまあ高い。本人は過去の男性恐怖症なところのせいで、自己評価低いだけなのだが、家庭のことなら割となんでも出来るし、頑張り屋さんなのだ。
当たり前だが、他のネトラレラ同様、えちちも期待に答える頑張り屋さんなのである。
しかし、どうしたら良いのだろうか。
おそらく俺が反対すれば、親父殿はこの恋を諦めるような気がする。
それはなんだか嫌である。
しかし…これは親父殿のために受け入れるべきなのか…? いや、それは親父殿のためになるのか? 相手はめちゃくちゃ流されてしまうダメな女なんだぞ?
それに一度目の離婚の真相も聞いてないんだぞ?
そもそもこれは俺が二人を引き合わせたと思っていたが、また神の見えざる一手じゃないのか?
ここでも俺の業が…業によるストレスが……くっ…!
いや、やはりダメだ。
クラスだけでも大変なのに、これ以上は無理だ。
ここは心を鬼にして!
親父殿のために断るべきだ!
『良かったね、父ちゃん! 僕は賛成だよ。先生優しいし。だから早く食べよ。お腹すいた』
『ふふ、そうしましょう。これからよろしくね、慎一郎君』
『わかったゾ母ちゃん』
『まぁ…ふふっ…』
『お、おい、慎くん…』
いや、違うのだ。
俺の業ストがとりあえず腹一杯にしてから考えろと囁いたのだ。
それに、ここで拒否したら暗い晩餐なのだ。
とりあえず素行調査はそれからなのだ。
ホッとさせた後で、必ずその化けの皮を、オラのクレヨンくらい、ずるむけに剥いでやるのだ。
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