第6話

 創造神んてら。


 言わずも知れたこの世界の神である。


 神、んてら先生の作品はこの世界の原作「彼女が親友からネトラレラれた件」のようなNTR幼馴染作品群がとりわけ有名なのだが、それ以外にも実は多数作品はある。


 人妻不倫ものはもちろんのこと、その他にも禁断の兄妹もの、禁忌の母親ものもあり、そのどれもが心を抉り折る人によっては不快な胸糞作品ばかりなのだ。


 嘘だと思われるかも知れないが、正直なところ、俺はエロ漫画にあまり直接的なエロ描写は求めていないのだ。


 ゾワゾワと侵攻するその水面下に、パキパキとヒビが入るその薄氷に、ジワリジワリと破滅に向かうその足音に、俺はたまらなく興奮するのだ。


 度し難い業である。


 そんな俺の業はさておき、神は一度たりとも幼女ものは描いていないのだ。


 俺もそれは無理なのだ。


 興奮の前に罪悪感が勝ちすぎると言えばいいのか、そもそも興奮自体が出来ないのだ。


 だから今お風呂場で、丸出しの俺のしんちゃんを不思議な顔してクニクニいじってる綾小路小夜がいても、何も興奮しないのである。


 むしろ限界痴態の罪悪感と相殺してプラマイゼロになっていく感すらある。



『パパと違うんだね』


『……』



 そしてこれがおそらく「え……昔見た慎くんのと…違う…」発言の源泉である。


 その原作シーンには大変興奮したのだが、いざ当事者になってみると、俺がその作品を汚しているみたいで何だかやるせない。


 大きな流れで見れば変わらないのかも知れないが、ミクロでは原作と違う気がするのだ。


 これは喜ぶべきなのかどうなのか。


 どうしてこうなったかは、こうなったとしか言えないのである。





 転生してから数ヶ月が経っていた。


 初日こそ戸惑って混乱していたが、すぐに割り切り、さりとて破滅に向かうのは避けたいからと割と無茶をやってみたのだが、所詮は子供。怒られるだけで終わるし、何より親父殿の悲しそうな顔は堪えたのだ。


 それからはあまり心配をかけないようにしていた。


 そして今日も毎度のことながら綾小路家で晩ご飯をいただいていた。


 一月ほど前から親父殿は急に仕事が忙しくなり、帰りの遅い父を待つ俺を慮って、綾小路家が晩御飯に招待してくれたのだ。


 これは原作通りである。



『慎一郎君はよく食べるな』


『ふふっ、そうね。小夜があまり食べないから作りがいがあるわ』


『自分、肉食系の雑食系でありんす。何でもばっちこい』


『それは言わない方がいいわよ、慎君』


『ガッテン小夜ママ。おかわりを所望す』


『ふふ、ワンパクね。何だか男の子欲しくなっちゃった。ねぇパパ?』


『んんッ、…ほら小夜も慎一郎くんみたいにいっぱい食べなさい』


『お野菜きらーい。パパもきらーい』


『……慎一郎くん、後で男同士話そう。今日、お風呂一緒にどうだい?』


『しんちゃんとはわたしが入るの。パパはダメ。またママと入ってあげて。出るの遅くてもいいから』


『……』



 小夜のパパママは原作通り最初から俺に甘かった。


 おそらく片親の俺を心配してだろう。


 今日も栄養摂取ならばと晩御飯をOKしたのだが、またお風呂まで用意されていた。


 初めは抵抗したのだが、そこは世界の強制力。渋々ながら子供二人で入っていた。


 身体を洗うのはまだしも、頭を洗うのは子供の指の力では無理だと思うのだが、シラミとか大丈夫だろうか。


 それにしても、俺の前世では何歳くらいで男女別にされていたかわからないが、いいのだろうか。


 原作にもそんな描写があったし、エロ漫画世界でそんなことを言っても仕方ないのかも知れないが普通に嫌である。


 だが、一食どころか二食分くらいいただいたし仕方ないかと、ペットを洗う気持ちで小夜の頭を洗っていたのだが、ここ最近になって「小夜が代わりに身体洗ってあげるね」と申し出てきたのだ。


 確かに効率がいいかと任せていたら、いつの間にか頑張りマメと同じように俺のしんちゃんをクニクニしてきていた。


 最初は「おや?」と掠る程度だったのだが、俺の反応がなかったからか、徐々に大胆になっていった。


 注意しようとも思ったのだが、そんな興味深そうな顔をされると何も言えない。


 後に語るが、保育園で散々な目にあったのだ。


 だから子供の好奇心を止めてはいけないと、好きにさせていた。


 座らせた小夜の正面に立ち、いつものようにシャカシャカと髪に泡立てていたら、本日、ついに冒頭のように、目の前で揺れる俺のしんちゃんに言葉が放たれたのだ。


 しかし、ぶっちゃけそんなことよりもこの黒髪に心奪われてしまいおざなりに返事をしていた。


 初めて洗った時も思ったが、なんなんだこの手触りは…。


 毎度ながら夢中で淡立ててしまうじゃないか。



『わわ、しんちゃん目が怖いよ』



 おそらくシャンプーが目に入るのを怖がっているのだろうが、言い方に気をつけて欲しいものである。


 それにこんなつるつる、見なくていいのに、シャンプー時に目を開けるくらい俺のしんちゃんに夢中なようなのだ。


 流石は肉欲に堕ちるネトラレラ。


 異性の身体に興味深々である。


 まあ、目の前をプルプル揺れていたらしょうがないか。



『…クレヨンくらい、かな〜?』



 それは言ってはいけないのである。

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