第2話

 ──しかして、ここは本当にあの世界だろうか。


 名前も容姿も出会いすらも、たまたま似通っていて、むしろ俺の記憶から生み出された妄想で、もしかすると勘違いというか夢違いということはないだろうか。

 

 そうだ、やはり信じられないと、帰り道キョロキョロしながら途中歩いて帰っていたのだ。


 いいや嘘だ。


 走れないのだ。


 ゴーゴ、ゴーゴーと電車に乗ったような気分で走っていたのだが、すぐ無理になっていた。


 子供は無闇矢鱈に元気なイメージがあったのだが、流石はこのヒョロガリである。


 体力はすぐに尽きたのだ。


 これは要改善ポイントである。


 食習慣や睡眠など、見直さなければならない。


 ヒョロガリになる未來を知っているなら、ここは何としても改善するべきだ。前世がどんな風貌で何をしていたかなど思い出すことはできないが、このままでは嫌なのだ。


 それに、それには理由があるのだ。


 俺のナニはこのままでは竜也/2になる恐れが十二分にあるのだ。


 ざまおより量も粘度も少なく、早撃ちの描写だ。


 しかも作中ではエレクタイル・ディスファンクションを患ってしまった風の描写があったのだ。



『ぎりッッ……!』



 つい歯軋りが、口から出てしまう。


 あの慎一郎の慎一郎の大きさで本気マンキンではないと思いたいが、現時点ではDNAの近しい親父のしか確認手段がないし、どうすれば片親のそんな痴態を目撃できるのかもわからないし、何よりしたいとは思わない。


 改善できるかわからないが、これは本当になんとかせねばなるまい。



『でも、やはり…』



 そうやって歩いていたら気付いたのだ。


 道ゆく人の美人率の高さや、街の景色や風景の色彩が、俺の知る現代ではないと訴えてくるのだ。公園の緑や川のせせらぎ、空の青さや流れる雲でさえも、プロの技に見えてくる。


 これはやはり、んてら先生のタッチに間違いない。



『つまりこれ…重版御礼フルカラー版の世界じゃないか…?』



 基本漫画はモノクロ派の横スクロール閥だが、これは別だ。特別で別腹だ。


 ファンにはご褒美である。


 主人公でなければ。



『くぅっ……!』



 怖いことに、もし仮に世界の強制力というべきものがあるのならば、俺は必ず小夜と付き合い、寝取られてしまうのだとふと思った。


 しかも漫画とは違い、今の俺にはその後の人生が続くのだ。


 小夜に裏切られた慎一郎の、最後に見せた泣きながらの後悔の鬱エレクト、アンド情け無い発射にED発症。


 その後彼はいったいどのような運命を辿ることになるのか。



『ちくしょぉめぇええ──ッ!』



 読みたぁぁいなぁぁぁ───ッッ!!


 末期である。


 いやいや、落ち着けよ慎一郎。


 いや、それ俺か。


 そうだ、これはもはや自分の人生である。


 自分じゃなかったらかなり楽しめるのに、今では恐怖しかない。


 続きはwebで、なら聞いたことはあるが、まさか転生するハメになろうとは……。


 前世で何をすればこんなことに…。


 だが後悔してももう遅い。


 こういう使い方だっただろうか?


 あまりザマァには興味がないのでわからないのだ。


 それにまあ、転生したならそれはそれで仕方ない。喚いたところで、俺の寄るべなど、このエロ漫画世界の家族にしかないのだ。


 ただ一つだけ言いたい。


 平日昼間に、「あ〜あ、エロ漫画世界に行けたらな〜」なんてゴロゴロしながら呟いている紳士諸兄方よ、存分に覚悟を持って嗜むがいい。


 ざまおならともかく、寝取られ主人公転生は嫌過ぎるんだぜ?


 俺もDQNみたいに悪いやつが急にいい奴になって、みたいな感じのエロ漫画世界で頬ポッポされてチヤホヤされたい。


 もしくは適当にあれこれ意見できるガヤがいい。



『……はぁ…』



 やはり、最善は彼女に惚れないことだろうな。


 いや、もし仮に惚れても付き合わなければいいのである。


 その場合、寝取られは発生しない。


 だが、BSSは発生する可能性は残されているのか…興奮するな………。


 いや、違うのだ。


 それは前世の業であり、あくまでフィクションだ。ノンフィクションは嫌である。それは大事な大事な分水嶺なのだ。


「あ~あ、リアル現代に生まれてりゃぁなあ〜」なんて割と本気で呟きながらも、ようやく家に帰り着くと、何やらアリさんマークの引っ越し車が隣家に停まっているではないか。


 引っ越し車とは言わないか。


 いや違う、そうだった。


 彼女は小さな頃、突然引っ越してきた系幼馴染だった。


 NTR系最強クラスである、隣のネトラレラであったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る