祝福のネトラレラ
墨色
神んてらの世界
第1話
突然だが、俺は転生者である。
六歳の時だ。当時の俺は頑張りマメを作るくらい雲底にどハマりしていたのだが、誤って手を滑らせ落ちたのだ。
頭を強く打ち、のたうち回っていた時に手を差し伸べてくれたのは、ある一人の女の子だった。
おそらく同い年くらいだが、ここらでは見ない顔だった。
心配そうに俺を見下ろしていた。
差し出されたその手を掴んだ時、俺はぶん殴られたような衝撃を受けたのだ。
突然、前世の記憶を思い出したのだ。
そんな事などもちろん知らずに、その女の子は俺のかったい頑張りマメを不思議そうにクリクリしていた。
なんだかムズムズとして、何故か手が喜んでいるのがわかった。
ちなみに頑張りマメとはタコのことである。幼稚園の先生が「頑張った証拠だよ」と鉄の棒を握りすぎて出来た俺の手のひらを見てそう言ったのだ。
そんな話はいいとして、問題はその女の子だった。
『大丈夫? 痛かったら泣いてもいいんだよ?』
そう言われて改めて彼女を見たのだ。
薄いピンクのあどけない唇。脳を痺れさせるかのような甘い声色。形の良い鼻筋に、人を惹きつけて離さない大きな瞳に長いまつ毛、そして何よりトレードマークである黒髪ロング。
この歳で、完成している美がそこにあった。
『ッ、き、君の名は…?』
『ふふっ、違っててごめんね。あやのこーじ、さよだよ』
『ぐわぁぁぁぁああ───ッッ!!』
『ええっ!? だ、大丈夫っ!? ママ呼ぼっかっ?!』
『だ、大丈夫大丈夫…! 頭打つのはいつものことだよ! それにママいないから大丈夫! ほんと大丈夫だから…』
ただ、全然前世が大丈夫じゃなかった。
彼女は前世の俺が愛読していたエロ漫画、「彼女が親友からネトラレラれた件」のネトラレラ──寝取られ系ヒロインをそう呼ぶのが一般的なのは周知の事実だが、そのネトラレラ中のネトラレラ、その堕ちっぷりが、星の数ほどあるNTR系エロ漫画界において、輝かしいまでの賞賛を手にしていたのがこのネトラレラの宝石、綾小路小夜だった。
ネトラレラをヒロインと言っていいのかは賛否がわかれるが、俺にとっては紛うことなき至極のヒロインだったのだ。
しかし、なぜ幼いのに彼女だとわかったのかと不思議に思うだろう。
実はそのエロ漫画、過去の描写が親切ご丁寧だったのだ。
それこそ、悪魔的なまでに。
主人公との馴れ初めを詳細に描けば描くほど、そのNTR時のカタストロフィというかエントロピーというか、その威力は増大するのだと作者である創造神、んてら先生に我らは教え賜ったのだ。
ストーリー自体はそれこそ星の数ほどある王道もので、奥手で不器用で優しいだけが取り柄の高校二年生のヒョロガリ主人公が、親友に彼女を寝取られるという割とよくある話だ。
世も末である。
その
つまり、鬱エレクトである。
俺も末である。
成長するにつれて、綾小路小夜は、幼馴染で同級生で巨乳で黒髪ロングで清楚でクラスのアイドル的存在という、男の妄想をこれでもかと詰めに詰め込んだまさに完璧ヒロインと呼べる存在になっていく。
そんな彼女に忍び寄るのは主人公の中学からの親友の二階竜也という、小金持ち爽やかイケメン、高身長という高スペに絶倫属性まで搭載した間男の中の間男、the間男と呼ばれていた恐るべき存在だ。
そしてそいつは竜というより蛇のようなしつこさと狡猾さを兼ね備えた男だった。
実際の蛇がそのような特徴があるのかは知らないが俺のイメージだ。
the間男──ざまおと呼ぼうか。そいつの狡猾な手口と雄の魅力により、高校二年の夏休みの最中、小夜は引き裂かれてしまう。
主人公との絆とか、女の子の大事なのとかをざまおされてしまうのだ。
詳しくは割愛するが、そうして主人公はその親友に寝取られ、最後にはヒロインから振られることになるのだ。
主人公が大切にしてきた彼女はページの関係か、比較的早く肉奴隷にクラスチェンジしてしまうのだが、堕ちているのに最後まで抵抗し恥ずかしがり続けるのがチャームポイントだった。興奮した。
いや違う、そうじゃない。
『痛い? 大丈夫…?』
大丈夫だが、痛いのだ。
切なくてただ切なくて、胸が痛いのだ。
創作とはいえ、この子があんなことになるなんて。
いや、最後の快楽に堕ちたシーンの表情と言動を思い出すと、彼女からすればそれは幸せだったのかもしれない。
『なぁに? 何か顔についてる?』
『…いや……』
可愛いほっぺに、白い影が重なって仕方ないだけである。
しかし……幼いとはいえ、そこは至高のネトラレラ。
しこたまヤられるだけのことはある。
整った顔立ちにアニメならこうだろなという妄想を遥かに超えたその美声に俺の前世の記憶が混ざり合い、脳が揺れて痺れてショートする。
しかしすぐに我に返ったのだ。
『…あなたのお名前は?』
『あ、ぼ、僕……? 僕は、僕は…はな…おか…しんいちろッ…ぅ!?』
なぜなら俺はそのエロ漫画のヒョロガリ主人公である、寝取られるのなら右に出るものなしの花岡慎一郎だったのだ。
不名誉にもむしろ寝取らせてんじゃねぇのか疑惑まである気付かな過ぎる主人公様だったのだ。
何をあろう、俺も「こいつもはやワザとだろ」と思った口だ。
切なさは吹き飛び、おいこれマジかよと頭を抱えていたら「痛いの痛いの飛んでいーかない。男の子だもんね、我慢しよ。くすくす」なんて意地悪そうに笑ってるのに、頭を優しく撫で撫でし続ける、そんな彼女に頬ポッポッしたのだ。
鳩さながらに目を丸くしたのだ。
なんこれめっちゃ気持ちEeeee…
『ク、クルックックー…』
『ふふっ、鳩さんのまねっこ?』
『あ、いや…その…』
つい、鳩になってしまっていた。
これが撫でポかと恐ろしさすら感じてクルックックーと狂ってしまったのだ。
いや、これは俺の照れ隠しだ。面白くも何ともないが、彼女は笑ってくれたから良しとしよう。そんなことを思って、くすくすと小さく笑う彼女を少しの間見惚れていたら、あれそういやこのやり取り、原作フラグだと遅れて気づいたのだ。
繰り返し読んだページは当たり前だが、えちちなページである。
過去描写を読み返すのは怖くて十回に一回だ。そんな気持ち、我らならわかるだろう。
なんとか思い出した原作では、もちろん鳩真似などしないが、この頑張りマメがキッカケで彼女とよく遊ぶようになるのだ。
それなのに、彼女も結果的に彼女の抵抗の頑張りマメというか、あんなにも硬くッ、大きくッ、クリクリックリクリッと痛いくらい激しくッ乱暴にッ………くッッ!!
『し、心配ありがとう! あっしはこれにてっ!』
『あっし? あっ──』
だから俺はこりゃやべえとすぐに走って逃げたのだ。
そんなの当たり前である。
いくら前世の俺が寝取られものやNTRもの、BSS系エロ漫画が好きとはいえ、自分がされるのは流石にイヤである。
それになまじ記憶があるせいか、彼女といるとおかしな気分になってしまう。
今はロリだが、成長した彼女の裸どころか恥辱の限りを見飽きるくらいに見てしまっているのだ。
その絶大なる罪悪感で、今はまだ天使な彼女のつぶらな瞳を見れないのだ。
当たり前である。
慎一郎氏には悪いが、限界痴態を一方的に知っているエロ漫画系ヒロインとどうこうなりたいなどサイコパスの所業である。
ここは逃げるが勝ちである。
そして必死に走りながら記憶の前世というか、自分がどんな人生を歩んでいたかとか、どういう風に死んだのかなどを思い出そうとするも上手くいかない。
このエロ漫画の内容や自身の性癖は十二分に思い出せるのにッ!
大変に度し難い業である。
もしかすると、その業の成せる業で俺は転生したのではないだろうかと、やるせない気持ちのまま俺は家に向かって走ったのだ。
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