第4話
──俺は彼女が好きなのだ。
どこぞのパパみたいになってしまったがさもありなん。ここはエロとはいえ漫画世界である。
これでいいのだ。
好きを自覚し、確信し、心に確認した俺なのだが、当たり前の話、リアルでは純愛を求めているし、NTRなどというそんな度し難い性癖を彼女に持ち込まないのである。
これはこれ、それはそれなのだ。
人は矛盾と二律背反と言い訳を抱えて生きているものなのだ。
それに、よくよく考えてみれば、今から必死に努力し、雄としての魅力を身につければ寝取られる運命も、回避できるのではないかと思い至ったのだ。
半分嘘だ。
ぶっちゃけ努力は嫌である。
考えてもみて欲しい。
他人の人生なのだ。あとで返せと言われたらなんか悔しいではないか。小さな男と笑いたければ怪我をすることになるから笑うのはやめておけ。
だがとりあえず俺も男だ。四分の竜也だけはなんとかしてやろう。
そもそもそれくらいしか抵抗でき──
『…あれ?』
『…?』
彼女と会話する中で、ある一つの可能性が浮かんだのだ。
この世界、もしかして二次創作世界の可能性はないかと、俺は思ったのだ。
作者による、セルフ創作の可能性はないだろうかと。
慎一郎と小夜の純愛を望む声が俺をこの世界へと遣わせたのではないだろうかと。
そうだ。
きっとそうだ。
そもそも寝取られるなら慎一郎に対して、俺の自我も記憶なんてものも要らないのだ。
なのに、俺はここにいる。
業深き俺が転生している。
つまりこれの意味するところは何だ?
これは…あるんじゃないだろうか?
運命を変えろと言ってるんじゃないだろうか?
それ故に神、んてらは俺を遣わせたんじゃないのだろうか。
辛辣なコメントの嵐に反省したんじゃないだろうか。
正直もっとやれとしか思っていなかったし、人選ミスは否めないが、ならばやることは決まっている。
彼女に気持ちをきちんとぶつけ、親友を作らなければいいのだ。
そんなことを言ってしまうと物語の根幹を揺るがすことになるが、こちとら必死である。それにリアルであいつと友達になるのは死んでもイヤなのだ。
それは一重に世界の強制力に俺の業が関係している。
その二つをイコールで繋ぐと、対を成す度し難いNTRになりそうで怖いのだ。
いや、ちょっと待って。
やっぱり覚悟なんて決まらない。
二次創作なんておそらく一介の消費豚であったであろう俺ごときにご都合が良すぎる。
それに転生ホカホカなのだ。
原作開始は高校時代なのである。だからもう少しこの世界を知ってからでもいいのではないだろうか。
そうしよう。まだお風呂も入ってないし、漫画飯も食べてない。それに人は怖いことは先延ばしにして心の延命を計る生き物なのだ。
あのネトラレラ達みたいに。
人は弱い弱い生き物なのだと彼女達は教えてくれたのだ。
幼馴染の間柄だって、俺がダメージを受けない形を作ればいいのだ。
そうだ。ここはただの隣人としての適切な距離を取ろうじゃないか。
それこそ思春期の男女並みに。
それにしても、幼馴染のネトラレラ率高くないだろうか。寝取られに馴染みすぎじゃないだろうか。語呂は悪いがむしろ#寝馴染みと呼ぶべきではないだろうか。
『これから仲良くしてくれる?』
『もちろんっしょっ!!』
あ、やっべ。
勢いで言ってしまった。まだ覚悟55パーくらいしか決まってないのに。恋のデフレ化政策しようとしてたのに。
『ふふっ! 嬉しいっしょっ!』
『…え? あ、うん…』
しかも真似されてなんかギャルみたいな言葉使いになってしまったぞ。
黒髪清楚がギャルに…それはそれで…いや、それは別の荒ぶる神の物語だ。だが嫌いじゃないのが度し難い。
『へへ…これからよ、よろしくね! こ、これにて! どろん!』
彼女はそう言いながら、腰窓から下に忍者が如く素早くフレームアウトした。
俺はすぐさま声をかける。
『窓開いたままだよ!』
『…』
無言で下から手だけ生えてきて、窓は閉められ…れない。力が足りない。鍵にも届かない。結局赤らめた顔で現れ、目を逸らしながらきちんと窓を閉めて、ちゃんとまたドロンして消えた。
なかったことにしたのか。
やっぱくっそ可愛いやんけ!
『……はぁ…』
俺は小さく溜息を吐いた。
本当にどうしたものか。
『慎くん、帰ってるのかい?』
そこに親父殿から声が掛かった。俺は何となくだが、素早く窓を閉めたのだ。
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