第13話 呪いのおすそ分け
「オジラニアーーーン!」
今日も我が家で妻が叫んでいる。
私の方を見て「オジラニアン」と言っているから、きっと私のことをそう呼んでいるのだと思う。
推測するに、
オジラニアン = オジサン + ポメラニアン
ではないだろうか。
ポメラニアンの話だと予想した私は「ポメラニアンがどうかした?」と妻に尋ねた。
「これ見てみ!」
そう言うと、妻はYouTubeの動画を私に見せた。
ポメラニアンがアザラシ・カットされていく動画が表示されている。YouTubeでよく配信されているカット動画だ。
妻はポメラニアンのヘアスタイルを指さして言った。
「ポメラニアン!」
そして、私の頭部を指さし言った。
「オジラニアン!」
私はちょうど前日に髪の毛をカットした。
最近はほぼボウズのような髪型をしているので、私の髪型はポメラニアンと似ていなくもない……
だから妻は私をオジラニアンと呼んでいる。
少し分かりにくいので画像で説明しよう。こういうことだ。
https://kakuyomu.jp/users/kkkkk_/news/16817330668751817280
ちなみに、この写真のオジラニアンは私ではない。ネットで拾ってきた画像の上だけをカットしたものだ。
髪がもっと白いので、現物(私)はもっとポメラニアンっぽい髪型だと思う。
妻はいつも私をよく分からない名称で呼ぶ。
例えば、こんな感じだ。
【例1】
「ソファーにオジル付けんなやーー!」
オジル = オジサン + 汁(しる)
つまり、オジサンの汗(あせ)のことだ。
【例2】
「うっわー。この部屋、オジ臭(しゅう)が充満しとるなー。換気しーや」
オジ臭 = オジサン + 臭い
つまり、部屋がオジサン臭いということだ。
他の家も同じなのかは分からない。
でも、全国には妻からの口撃に耐えるオジサンがたくさんいるはずだ。
私は全国のオジサンの健闘を祈っている。
***
「ところでな……」と妻は私に話しかけた。
どうやら、妻の本題はオジラニアンではなかったようだ。
「どうしたん?」
「朝起きてYouTubeをチェックしてたんやけどな……」
妻は朝起きたら自分のYouTubeをチェックしている。正確には私のアカウントで配信されている妻が書いた書道動画だ。
自称ユーチューバーとして、妻は自分の書いた字のチェックは怠らない。
「それで?」
「これはナシやと思うで……朝一でこれ見たら、気ぃ悪くなるわ」
そう言うと、妻は私に習字動画を見せた。
【呪】
これは、昨日アップロードした字だ。
バランスが変なのだが、字が上手くても再生回数にはあまり関係ないから、そのまま配信した。
呪術廻戦が流行っているから『呪』もアリだろうと思って、妻に書いてもらった。
「朝起きてな……今日一日頑張ろうと思っている時にな……呪いやで……」
「そうやなー。朝一で見た人はアンラッキー・デーやと思うかもなー」
「そやろ」
妻は朝一で自分の書いた『呪』を見て、気分を害したようだ。
そんなこと思うのなら書かなければいい……と言いかけたが止めた。
「私の字が世間に迷惑かけてるんやな……」と妻は言う。
そんなことはないと思う。少なくとも私は全く気にしない。
それに、この動画を見ている半分は外国人だ。意味が分からずに『呪』の動画を見ている。
「そんなに気になるんやったら、非公開(プライベート)設定にする? そしたら、他の人から見えんくなる」
「そうやなー。これ朝に見たら、今日一日頑張れんようになるしな……」
私は『呪』の動画をチェックした。すると、再生回数は既に2,000回を超えていた。
このまま公開しておけば3,000回はいきそうだ。
私は念のために妻に確認する。
「再生回数が2,000回超えてるけど、非公開にしてもええ?」
「2,000回かー。もったいないなー」
妻は『呪』は気に入らないものの、再生回数は欲しいらしい。
どうせ非公開にはしないと悟った私は、妻の罪悪感を拭うために提案をする。
「じゃあ、『幸』を書いて配信したらいいやん」
「『幸』を載せたら何かあるん?」
「誰かが『呪』を見たとしても、『幸』を見たらプラスマイナスゼロになるやろ」
「そうかな……」
「なんなら、『呪』の動画の最後に「この動画を見た人は、『幸』の動画を3回以上見ないと不幸になります!」って書いとこか?」
「不幸の手紙か!」
こうして、妻はせめても罪滅ぼしのために『幸』を書いた。
その後、『幸』を配信したのだが残念ながら再生回数は300回ほど。
『呪』がもたらす視聴者の不幸は打ち消せなかったのかもしれない。
それにしても……朝一で『呪』の動画を見たくらいで、そこまで思うのだろうか?
<続く>
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