第11話 あかん、代わりに見といて……

「あかん、代わりに見といて……」


妻が私に苦し気な表情で頼んできた。私に何かを頼むなんて珍しい。


今から少し前の事だ。

この時、妻と私は代々木体育館(国立代々木競技場第一体育館)にいた。

私たちの目の前ではバレーボール日本女子代表がブラジル代表と戦っている。

この試合は接戦だった。


まず、第1セット~第4セットの結果はこんな感じだった。


第1セット:日本21―ブラジル25

第2セット:日本25―ブラジル22

第3セット:日本25―ブラジル27

第4セット:日本25―ブラジル15


日本代表は、負け・勝ち・負け・勝ち、ときている。第5セットは順当なら『負け』かもしれない。

いま第5セット(15点先取したら勝利)だが、ブラジルが10点とった辺りから、妻が顔をコートから背け始めた。


緊張するらしい……


妻と私は前の試合(トルコ対ベルギー戦)から見ていた。トルコ対ベルギー戦も面白かった。


特に目立つのがメリッサ・バルガス。世界ランク1位のトルコのエース・アタッカーだ(元キューバ代表)。ボウズ頭にタトゥーがいっぱい入っているから、デニス・ロッドマンを彷彿させる外見だ。

ファンの皆さんには申し訳ないが、私は彼女のことを「丸刈り」と呼んでいる。

ついでに言うと、トルコ代表には私が「角刈り」と呼んでいる選手もいる。


私は観戦が面白ければ、日本代表が勝っても負けても構わない派だ。

一方、妻は日本代表に勝ってほしい派。


妻はマッチポイント目前の攻防を直視できないでいる。


「なあ、どっちに入った?」

「ブラジルやなー」


「どっち?」

「日本やなー」


「どっち?」

「ブラジル。マッチポイントになった」

「えぇ? もう?」

「そやなー。最後くらい見たら?」


そう言っている間に、日本代表はフルセット激闘の末ブラジル代表に惜敗した。

なかなか面白い試合だったと思う。

妻は最後見ていなかったが……


こういう状況(代わりに見といて)は他の家でもありそうな気がする。



***


ちなみに、皆さんはバレーボールの試合を観戦したことがあるだろうか?

妻と私は今回初めてバレーボールを会場で観戦した。


チケットをどうやって取るのか? 座席はあるのか? 何時に会場に行けばいいのか?

などなど謎だらけだった。


きっかけは先週、テレビでバレーボール日本女子代表の試合を見ていた時だった。

妻がボソッと言った。


「これ、どこでやってるん?」

「日本やなー。代々木って書いてあるで」

「すぐ近くやん。チケットまだ売ってるかな?」


妻は私に言ったまま、こっちを見ている。

妻は自分でチケットを取ろうとは思っていない。

私は「チケット取れやー」という妻からのプレッシャーを感じた。


チケットぴあで販売していたから、座席を確認すると「スタンド自由(3,000円)」だけ残っていた。私は妻にチケットを買うか確認する。


「女性代表のブラジル戦のスタンド自由やったら売ってるで。他の試合は売り切れ。男子も完売やな」

「そっかー、男子は人気やもんな。石川、西田とか人気選手いるし」

「日曜日やし、行ってみる?」

「そうやな」


私は「スタンド自由(3,000円)」のチケットを購入したのだが、幾つかの疑問が生じた。


「スタンド自由って、席あるんかな?」


私は妻にチケットサイトの座席図を見せた。

妻は座席図とテレビ画面の座席を見比べている。


「あの上の方やな。あの人たち座ってそうな気がする」

「まぁ、あの角度で立ってたら危ないしなー。じゃあ、座席はあるということで」


※スタンド自由でも座席はあります。ただ、自由席なので座席は早い者勝ちです。


立ち見ではないことに安心した私だったが、もう一つ気になったことがあった。


「試合開始時間が午前10時って書いてある……」


妻は少し驚いて私に確認した。


「日本戦始まるのは19時やろ?」

「そうやけど、日本戦の前に3試合あるねん」

「10時から全部見れるんやな」

「みたいやな」

「早く行って席確保しなあかんかな?」


妻は朝から代々木体育館に行きそうな勢いだ。


「朝から? 昼ご飯どうするん?」

「何か買っていくか、交代で原宿に食べに行ったらいいやん」

「えぇ? それやったら体育館に10時間以上いなあかん。1試合前からでいいやん」


朝10時から会場に行こうとする妻と、10時間以上も体育館に居たくない私の攻防は続き、1試合前から見に行くことになった。


※1試合前(16時開始)に行きましたが、真ん中以外は空いていました。


これで終わったと思っていた私に、妻は日本代表の試合を見ながら言った。


「あの応援グッズ、会場に売ってるやろか?」

「応援グッズ?」

「あー、あの金色の棒」


テレビに映った観客は、どいつもこいつも金色の棒みたいなのを2本もって応援していた。

金色の棒を持っていないと応援してはいけない雰囲気だ。


「あの棒、欲しいー。買ってくれー、買ってくれー、買ってくれー」


妻はこういう時、面倒くさい。


会場で応援する時に、金色の棒を持っていれば盛り上がるだろう。

でも、金色の棒はバレーボールの応援以外では利用価値はない。

それに、家に置いておくと妻が金色の棒で私を叩くだろう……


金色の棒を買いたくない私は妻に提案する。


「キッチンペーパーの芯に金の色紙、貼ったろか?」

「いややー。あの金色の棒がいいー」


妻は私の提案を却下した。でも、会場で「2,000円です!」とか言われると困る。

しかたないから、私は交渉することにした。


「安かったらな」

「安いって幾らまで?」

「500円やな。500円超えたら買わへん。それでええ?」


妻は金色の棒が500円を超える可能性を考えている。だが、500円はさすがに安いと思ったようだ。


「1,000円!」

妻は値段交渉に入った。


「600円!」

「900円!」

「700円!」

「800円!」


「分かった……800円以下やったら買う」


こうして、我が家のブラジル戦観戦の準備が整った。

いつもそうだが、こういうイベントは家を出るまでに時間が掛かかる。


皆さんの家も同じではないだろうか?


***


ちなみに、金色の棒は代々木体育館に行ったらタダで配っていた。

現物は棒ではなく、空気を入れて膨らませる風船のようなもの。


参考に写真を載せておきます。興味のある人は見て下さい。


https://kakuyomu.jp/users/kkkkk_/news/16817330668646017865


※膨らませる前(上)、膨らませた後(下)



さて、今回の復習です。


・バレーボールの「スタンド自由」には席がある。ただ、自由席なので早い者勝ち。

・自由席でも、試合開始1~2時間前に行けば真ん中以外の席は確保できる。

・金色の棒(風船)は買う必要はない。会場で貰える。


これからバレーボールの観戦に行こうと思っている人は参考にして下さい。


<続く>


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る