第10話 この部屋、くっさーーー!
「この部屋、くっさーーー!」
今日も我が家で妻が叫んでいる。棘のある言い方だ。
私が臭(くさ)いのか? それとも、私以外が臭(くさ)いのか?
気になる年頃の私(オジサン)としては、主語を付けて話してほしいところだ。
ちなみに、今回もYouTubeの話ではない。
妻は自称ユーチューバーとして活動を続けている。私は自称ユーチューバーのアシスタントだ。自称ユーチューバーには、そんなに頻繁に事件が起きるわけではないのだ。
何が臭(くさ)いか妻に聞いたら、エアコンの臭(にお)いだった。
皆さんも経験あると思う。エアコン内部に溜まったホコリやカビなどが原因で発生する。カビ臭(くさ)い、生乾き臭(くさ)いなど、何と表現していいか分からない嫌な臭(にお)いだ。
うちの妻は匂い(臭い)にうるさい。
そして、今まさに妻はエアコンの臭いに叫んでいる。
臭いを取るために窓を開けて換気しはじめた。雑に窓を開けてイライラしている。
ついでに、私の匂い(臭い?)も嗅いだ。
もし、私が臭かったらファブリーズを振りかけてきそうな権幕(けんまく)だ。
我が家のオジサンの力は極めて弱い。
最近妻はナッツが体臭に効くというネット情報を仕入れてきた。
「ナッツ食べたら体臭消えるらしいで。猫ちゃんのエサみたいやなー」
「へー」
「食べにくいやろうから、ナッツを砕いてナッツパウダー作ったろか?」
「ナッツパウダー……それ、どうやって使うん?」
「ご飯にかけて食べたらいい」
「プロテインかっ!」
結局、ナッツパウダーは咽(むせ)そうだから、私はナッツを普通に食べることにした。
妻はいろんな健康法、美容法を実践していて、私にしつこく勧めてくる。
宗教の勧誘と似ているかもしれない。
・エイジングは日焼けからくる。外出時には日焼け止めを塗れ!
・入浴後は体の水分が不足している。化粧水を塗れ!
・顔の筋肉は衰える。顔を鍛えて引き締めろ!
・歩くときは上から引っ張られるように!
こんな感じだ。
役には立っている。
でも、一日に何十回も言われ続けていると、非常に鬱陶しい。
***
妻は臭(にお)いに敏感だ。いろんな臭いに反応する。
「なんか臭くない?」
「このタオル臭くて使えんわー!」
「乾く前に畳んだやろー!」
「雨の日に洗濯するからやろー!」
妻からの罵声が毎日のように私に届く。
各家庭のローカル・ルールがあると思う。我が家では私が洗濯をしている。
毎朝起きたら洗濯機を回し、洗い終わったら干す。乾いた洗濯物を取り込んで畳む。
だから、うちの妻は、洗濯において発生する責任は全て私にある、と思っている。
洗濯したタオルが湿気臭かったら私の責任。
雨の日に干して湿気臭かったら私の責任。
そんな感じだ。
私は朝起きたら洗濯機する生活リズムができている。
晴れの日も曇りの日も雨の日も……
晴れ以外の日に洗濯する私を、妻は完全にバカにしている。
そんな私を見て妻は言う。
「せんたくミスやな?」
『洗濯』と『選択』を掛けたのだ。意味は分かる。
ただ、「うまいこと言ったやろー」みたいなドヤ顔をする妻に反抗する気持ちが生まれる。
私はイラっとしたから妻を無視した。
「せんたくミスやな?」
妻は繰り返してくる。何度も、何度も……
しかたないから私は妻の「せんたくミス」に反応する。
「ふーん。おもしろい、おもしろいー」
「えぇ? 意味が分からんの?」
「それくらい分かるわー。うまいこと言ったと思ってるんやろ?」
「このセンスが分からんか?」
「分からんなー」
多分、個人差・男女差があると思うだが、私は毎日していることを急に止められない。
朝起きてからのルーティーンを決めていて、そのルーティーンを毎日続けている。
雨の日に洗濯したら妻にバカにされることは知っている。
でも、毎日のルーティーンだから止められない。
今日も妻の声が聞こえる。
「このタオル臭くて使えんわー! 雨の日に洗濯すんなやー!」
きっと機嫌が良くないだけだ。私のせいではない……
<続く>
【後書き】
「におい」と「くさい」は両方とも「臭い」だから紛らわしいですね。書いていて、どっちがどっちか分からなくなりました。
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