第21話 親愛なる君へ

 夏の日差しが厳しく降り注ぐ午後。墓の周囲の雑木林からひぐらしの鳴き声がしんしんと鳴り響いている。僕と春、祐樹は誠の墓の前で手を合わせていた。誠の父親が骨を墓に入れたということがあり、墓参りをすることになったのだ。蔵原香織は他の予定で来れないということだった。その後、休みの日に僕と春は、屋上での一件を蔵原香織に話しに行った。蔵原香織は多くを語ることは無く、ふーんだとかやっぱりかとかと言っていた。しかし、最後に、蔵原香織は「彼は見つけられたのね」眉を八の字にして、瞳を潤ませて目を細め言った。香織はもう鶴を折っていない。僕と春、祐樹は一度誠の家に行った。初めは誠のセクシュアリティについて教えるべきか悩んだが、やめた。その時、鳥海の父親、真砂は誠の遺書に追伸があることを教えてくれた。誠の追伸「生に未練がないと言えば、嘘になる。僕は、君たちと同じ世界で生きたかった。生きたかったんだ」僕らは場所も憚らず、大泣きした。誠は死んでもいいと思っていたのでなく、もがきながらも生きたいという気持ちがあったという事実を知ることができたのだから。線香の香りが鼻をくすぐる。ふと、去年の夏の駅の待合室のことを思い出す。誠と僕はじんわりと汗をかきながら、電車を待っていた。

 

 「急に変なこと言ってもいい?」

 「どうぞ」


 僕は手を向けて促す。


 「人はきっと世間から認められた存在になりたいと思ってるんだよ。だけど、それがいつしか自分を押し殺し、他人の服や趣味、考え方まで合わせるようにして、認められようとなってしまった。セクシュアリティも例に漏れず。それが、認められるのではなく、認知されないことにつながるとも知らずに、だ」

 「なるほどね。一理あるかもしれない」

 「世の中ってもっと簡単でいいのに。そこのところ」

 「そうだね」


 誠の言葉を思い出す。


 「性の方向性なんて、右利きか左利きかの違いと同じくらいなのにな」

 

 誠は多分、本心であり、その言葉が全てだったのではないかと今では考えられる。


 「夏彦君、そろそろお暇しようか」

 「帰るぞ」

 「そうだね、行こうか」


 誠、君のような考えが広まる世界になることを僕は強く願うよ。入道雲は輪郭を強めた。青い空は背景を思わせた。夏の風の匂いがした。


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