第17話 一歩

 授業が終わった。俺は、久しぶりに会った級友たちと雑談を少し交わした後、すぐに、廊下へと足を向ける。

 放課後の廊下には、部活に向かう男子生徒、雑談を交わす女子生徒、ただ帰宅をする生徒、と様々だった。

 学校には、二週間程来ていなかったことから、懐かしくも、新鮮にも感じた。

 それらの生徒の間を縫うように歩き、先へ先へと歩を進めた。二階から三階の階段を登って行き、行き交う生徒にぶつからないよう、左による。そして、三階から屋上までの踊り場で足を止める。踊り場の上部の窓から日差しに目を細める。目を閉じ、深呼吸をする。今になって、怖気ついた訳ではない。しかし、これから行うことは自分にとって、何かが終わるのか、それとも始まるのかはわからない不安は、ある。


 「不安は、わからないことに対して起こる蜃気楼だよ」


 鳥海の言葉を思いだす。こんな時でも、お前は俺の背中を押してくれるのか。こんな俺にでも。話さなければならない。決心した心は、決意へと変わり、使命になった。目をゆっくりと開き、今から進む自分の行く末を見つめる。足を屋上までの階段に置き、それを踏みしめて、もう一方の足で次の段に置く。一つ一つ段を昇っていく。屋上の扉の前に立ち、扉のドアノブに手をかける。ガチャリと音を立てながら、扉を外側に開ける。

 もう、俺は迷わない。屋上からは、四月の終わりということもあって、少し暑く、水分を含んだ空気の匂いがした。

 屋上には、荒瀬夏彦、奈々丘春がいた。陽に照らされた俺たちだけ、世界から輪郭を強調させられているようだった。




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