第5話 曖昧だ

 僕は夕飯のハンバーグの焼き加減を見ている。香草の香りがこうばしく漂う。

 今日の図書館での出来事を思い返す。

悪魔の証明。その言葉を思い出した。実際存在し得ないものを証明するというものだった気がする。

 勇気。響きはとてもかっこいいものだが、その実、曖昧だ。悪魔となればなおさらだ。曖昧が曖昧を呼ぶ。

 しかし、物事の本質は全て曖昧な部分がほとんどではないだろうか。

 例えば、人を殴ったとしよう。殴るという行動はとても具体的だが、何故殴ったかの動機つまり本質は様々な事象のもと造られたものではいないだろうか。怒り、悲しみといった抽象的感覚から明確な根拠まで。つまり、曖昧なのである。

 手紙を読み解くとは、曖昧から何かしらの行動を繋げるということなのだと僕は目処を立ててみる。これが今後の話にどのような動きを見せるかは、まだわからない。


 「お兄ちゃんできたー?」

 

 キッチンのカウンターテーブルを挟みソファーに横たわる妹が呼びかけてきた。


 「あともう少しだから待ってろー」

 

 間延びした声で返答する。


 「はーい」


 こちらも間延びして返す。ハンバーグの裏面を確認して程よく焼けていたらさらに移す。ソースは市販のデミグラスをかけ完成。自分では上出来な仕上がり。妹は普通だと言った。

 上手くいかないものだ。ハンバーグも人生も。

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