第32話 厄介な問題事には、厄介な相談相手を。
この世界の神様達と言うのは、それぞれ司る要素がある。
火とか水とか、いわゆるエレメント的な要素ももちろんあるのだが、もっと細かい各種概念がそれぞれ割り当てられている。
例えば、ヴィクトリアさんは戦いと勝利を司っているらしい。
多分嘘だと思う。あの日ごろの態度で戦いと勝利は無理っしょ。
俺は知らないがショタ神様も何かしらを司っているのだろう。
片腕を吹っ飛ばされていた男神だって同じだ。
そして司っているものの規模は、神様の位に大きく関与する。
もちろんそれがすべてではないが、大きな規模のものを司っていない神様が一定以上の強さを得るのは恐らく無理だろう。
少なくとも俺が元いた世界においてはそうだった。
であるならば。
音楽と安らぎを司る女神というのは、ぱっと聞いた感じでは小規模かつ穏やかで優しい神様に思えるものの、よく考えたらすげえエグい神様だと思うんだよね。
「というわけでそのエグい女神様と会うことになったんだわ」
「あなたは謎の引力を持っているわね」
話を聞き終えた後に、元悪役令嬢が眉間をもみながら嘆息する。
俺は掃除を終えて帰社した後、偶然顔を合わせたパトリシアに愚痴っていた。
向こうもそれなりに仕事で疲れている様子だったが、俺の話を聞いた途端に表情は呆れ一色になった。
「エルオーン……かなり厄介な女神に目をつけられたわね」
「そうなの?」
二人して街並みを進みながら話す。
こうして並んで歩いていると、過ぎ行く人々がパトリシアの美貌に目を奪われ、思わず足を止めてしまうのがよく分かる。
「表現として適切か分からないけど、ゴミ掃除の仕事をさせ続け、休息を与えず、たまの帰り道の一人飲みすら禁じて二週間経過したあなたがすべての制限を解除された時ぐらい危険よ」
「世界の危機ぐらい危険ってことでいいのか? あと仮定が悲しすぎて泣きたくなるからやめろ」
「そう? ひどい目に遭っている方が現実的に考えられるのではないかしら、と思ったのだけど」
「……それ現実の俺は常にひどい目に遭ってることが前提だよね!?」
パトリシアはこてんと首を傾げた。
こいつは何をいまさら当たり前のことを言っているんだろう、と顔に書いてあった。あんまりだ。
「クソッ……いまいち否定できないのがつれえよ……」
「雑魚なんだから、言い返そうとするのをやめなさい」
「どう考えても追い打ちをかけるタイミングじゃなかったよね?」
死体撃ちに余念がなさ過ぎる。ダブルタップはおろかトリプルタップ、クアドラプルタップの領域に手が届きつつあるだろう。
じゃあもうブリザードタップだろ。
「で、それをどうして私に相談したのかしら。ついに私こそが、あなたの全てを共有する相手として相応しいとその小さな頭で弾きだしたの?」
こちらがげんなりしていると、心なしか誇らしげな様子でパトリシアが問うてくる。
どんだけポジティブシンキングなんだよこいつ。自意識がレアメタルで出来ているのか?
「頭が小さくはねえよ。ヤバそうな女神が相手だし……だったら同じように、ヤバい女をぶつければいいんじゃないかなって……」
「あなた本当に消し飛ばすわよ」
パトリシアの額に青筋がビキバキと浮かんだ。
まずい。このままではまたサンドバッグにされてしまう。
「っていうかお前、名前聞いた瞬間にピンと来てたよな。もしかして神様に関して詳しかったりするの?」
「私自身も一度彼女に、綺麗な魔法の音を奏でるんじゃないかと期待されたことがあるのよ。最も彼女の求める美しさと私の考える美しさには大きな差異があったのだけれど」
「ほーん」
どうやらパトリシアも接触されていたらしい。
なんやねん。特別扱いされてるわけでもないのか、じゃあいよいよ嬉しいポイントないわ。
「まあお前の使う魔法、綺麗だし好かれそうだよな。俺も心根の純粋な子供とかなら見惚れまくってたかもしれないし」
「…………」
「ん?」
急に黙ってしまったパトリシア。
ぽかんとした様子でこちらを見つめる彼女に、訝し気に視線を返す。
「どしたんだ?」
「あっ……い、いいえ。不思議なことを言うものだから、驚いてしまったわ」
「変なこと言ったか?」
「綺麗って、人を殺めるための光なのだけれどね」
自嘲するように告げて、彼女は首を横に振る。
「迅速に、的確に、そして痛みなく殺すための魔法は……悲鳴と断末魔を好む女神様にはウケが悪かったのよ」
本当に最悪の話だった。
それを言ったら俺だって悲鳴を上げさせるのは得意じゃねえよ。加減しなかったら、悲鳴を上げる暇もなく消し飛ばしちゃうわけだし。
「マジで会うの怖くなってきたわ……」
「頑張りなさい。骨は焼くわ」
「拾ってくれ」
「あらごめんなさい。骨ごと、焼くわ」
「生きて帰っても死んだことにされるんじゃん!!」
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