第25話 背信者攻撃作戦(前編)
クラーク領の自治警備を行っている警察組織。
普段彼らが捕らえた罪人の拘留用に使われている施設は、内側から破壊され炎に包まれていた。
「……攻撃目標は三番拠点か」
保管されていた自らの装備を取り戻した汚泥のカウントフェイスが、首を鳴らしながら悠々と闊歩する。
その身に宿った力は、捕らえられた時とは比べものにならない。
両腕の魔導器が甲高いチャージ音を響かせながら、人の身には余るほどの強大な魔力を練り上げ、余波だけで周囲の物質を破壊して回る。
「リベンジマッチだ、待っていろよ……」
ある程度破壊活動が終わった後、彼は本格的な交戦を挟まずして夜闇の中へと消えていった。
それは逃走というよりは、何かの目的のための疾走だった。
◇
勇者レイン率いるA部隊。
そこに配属された俺は、まあまあな急勾配である山道を、荷物を背負って走らされていた。
「フハハハハッ!」
部隊の先頭を務めるは、高笑いしながら疾走する褐色肌の男神。
人知を超えた濃密な神秘を身に纏い、その身体能力だけで軽々と山を越えていく。
置いて行かれないように後を追って走るのが勇者レインや親切なスキンヘッドのおっさん、そして各種荷物を背負った俺である。
「おいっ荷物持ち! ついて来れてるか!」
「はい!」
背中越しにかけられた声に、怒鳴るようにして返事をする。
あのクソ神様が、作戦開始と同時に勝手に走り始めたせいで、俺たちの行軍速度はゴミになった。ひたすら全力疾走するだけである。何が行軍やねん。
「ていうか神様って! こういうとき、前に出てていいのかよ!」
「知らねーよ! あの神様が勝手に出てきただけだろ!」
他の隊員たちも口々に不満やら不安を叫ぶ。
当初の予定では、C部隊が敵の退路を断つために回り込むのを待ってから攻撃を仕掛けてる予定だったのだが……これでは間に合うかどうか微妙だ。
ズザザザザ、と薄暗い山道を走りながら、頭の中の地図と自分たちの居場所を照らし合わせる。
どう考えてもペースにミスがあるんだよな、勝手に走り出したせいでさあ。
「……! 前方に敵の気配!」
走っている中、索敵担当者が声を上げた。
目をこらせば、神様が走っているよりも前方で敵兵が待ち構えている。
流石に派手に行動しすぎて、向こうの警戒網にも引っかかったらしい。
「フハハハハハハハハハハッ!」
だがそんなものお構いなしに神様が突っ走っていった。
敷かれた防衛網をあっさりと突破し、その際の余波だけで、辺りの背信者たちが轢殺されていく。
「……単独で突っ込んでもらう分には、こっちが楽できていいかもな」
「良くない! あそこまで先行されたら全体管理が出来なくなるだろう!」
俺の呟きに反応した後、勇者レインが彼を追って走って行く。
本当に勘弁してくれよなあ、何もかも予定が狂ってるんじゃん。
「っと……」
神様とレインが討ち漏らした敵たちを、すれ違いざまに蹴り飛ばしていく。
ただでさえ先を急がなきゃ行けないんだ、いちいち相手にしてられるかよ。
「こいつら……!?」
「邪魔!」
弓矢を構えてこちらに狙いを定めようとする背信者の男。
俺はそれより先に間合いを詰めて、武器ごと男を蹴り飛ばす。
「やるじゃねえかあんた!」
同様に、敵の雑魚共をあしらいながら前へと進んでいるスキンヘッドの男が声をかけてきた。
「流石にこんなところで足止め食ってる暇ないでしょ、さっさと進まないと!」
「ハッ、ウチのチームの新人たちよりか遥かに助かるぜ」
「ああ、気遣いありがとな。帰ってから俺の雄姿をその新人たちに伝えてやっとていくれ」
「それだけ喋れるんなら上等だ」
言い合いつつ、坂道を駆け上がり、山を一つ越える。
暗闇の中でじっと目をこらせば、前方のあちこちで戦いの火花が散っているのが見えた。おそらくは先行している神様と勇者レインだろう。
「随分と先に行かれてるな……」
多分だけど、神様は意地でもレインを自分のものにしたいんだろうな。
だからこそ誰よりも先に前へと進んでいくことで、順調にキルスコアを稼いでいきたいんだろう。
「案外このまま……神様が突っ走って、それで全部解決してくれたりしないかねえ?」
一人でそうぼやいた、その刹那だった。
別働隊として動いているB部隊が進んでいる方向から派手な爆発音が聞こえた。
「……ッ」
感づかれた?
俺たちがバレてるんだから当然、別の部隊にも迎撃が向かってるってのは自然な話だけど。
どうするべきかと、スキンヘッドの男と視線を交わす。
「……俺が様子を見に行く。お前は勇者レインの荷物持ちなんだろ、このまま行け」
随分とかっこいい台詞だ。
「……そうだな、悪いけどそうさせてもらうよ」
実際、今回の参加の経緯を見れば、そうなるのが自然だ。
スキンヘッドの男が音もなく曲がって別ルートへと向かったのを確認して、俺は一人山道を走り始める。
正面から響く戦闘音が近づいてくる。
近づいてくるということは――いつの間にか、神様もレインも、前へと進んでいないと言うこと。
やがて見えた光景。
それは俺が捕らえたはずの汚泥のカウントフェイスが、褐色肌の男神の首を掴んでつり上げているというものだった。
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