第24話 背信者攻撃作戦開始
「では、作戦会議を始めようか」
腕利きを集めた作戦会議の場で、
以前から話題に上がっていた、背信者たちに対する大規模攻撃作戦の会議だ。
今回は機密性を保持するため、会議終了後即座に作戦が開始されるらしい。
場所はクラーク領市街地から少し離れた山間の地点。
普段は警察組織が訓練時に使っているという建物の一室には、見るからに強そうな人々が集められていた。椅子に座ってる人もいるし壁に背を預けて佇んでいる人もいて、全員立ち振る舞いに隙が無い。手練れ揃いだ。
ちなみに俺はなるべく目立たないよう後ろの壁と同化していた。
F級は場違いだし、目立ってもいいことないからね。
「今回君たちにお願いしたいのは、背信者たちの拠点に対する奇襲作戦への協力だ。警察機構はあくまで治安維持のためにあるから、こういう凶悪な集団の対応は任せられない。よって僕たちが選抜したメンバーで奇襲をかける」
山々が広がっている中で、今いる場所から三つほど山を越えた先に目的地があるらしい。
先日、ヴィクトリアさんたちを助けるため俺が一人で突撃した湖のほとりの拠点は、かなり小規模な拠点だった。
今回はそれとは違ってかなり敷地が広そうだ。
「侵攻ルートは全部で三つ。山を越える形で高所を陣取りつつまっすぐ進むA部隊、山を迂回しつつ側面から攻撃を仕掛けるB部隊、先行して敵拠点後方に回り込み敵の退路を断つC部隊」
それぞれの侵攻ルートが地図に表示される。
また、このタイミングでそれぞれの参加メンバーがどこの部隊なのかが名前を読み上げられた。
俺は当然だが、勇者レインが隊長を務めるA部隊に割り当てられていた。
最前列に座っているレインへちらりと視線を向けると、ちょうどこちらを見ていたらしく、パチッとウィンクされた。
あっ可愛い。好きになっちゃう。
「敵の生死は問わない。だが拠点の各種設備は破壊しないよう気をつけてほしい……概要は以上。質問は?」
そうこうしているうちに作戦の説明が終わっていた。
まず最初に、レインと同じく最前列の椅子に座っていたスキンヘッドの男が発言を促された。
「今この部屋にいる人間は、全員戦闘要員って認識で合ってますか」
「もちろんだよ」
「じゃあ……」
そこで言葉を切り、彼は振り向いて俺へと視線を向ける。
「あんたF級だろ。真昼間にゴミ拾いしてるの見たことあるぜ。なんでここにいるんだ?」
全然目立たないようにできてなかった。
確かに作戦の説明中も、なんか視線は感じてはいたけどな。
「トール君を呼んだのは私だ」
なんと返事をしたものか……と悩んでいると、颯爽と立ち上がる影が一つ。
我らが勇者様、レインだ。
「今回は普段のパーティメンバーが別件で参加できなくてね。サポーターとして『私個人の判断』で『特例』として彼を呼んだ。『神々も』認可してくれているよ」
滔々と説明を並べていくレイン。
どうやら事前に言い訳を考えてくれていたらしい。
これはありがたい、馬鹿正直に『ここにいる全員より俺が強いからだが……?』とか言ってたら袋叩きにされていただろう。
「つまり勇者様の荷物持ちってワケか?」
「む……」
「それで合ってるよ」
レインが何やら不服そうな声を漏らしたので、慌てて肯定した。
事実だし。それぐらいの働きしか流石にできないというか、やる必要もないと思う。
スキンヘッドの男は俺をレインを何度か交互に見た後、一つ頷いた。
「なるほど、分かった。だが……邪魔だけはするんじゃねえぞ」
「それぐらい分かってる」
「本当に分かってんのか? 敵が高所を陣取ってるとき、射線を読めるか? 俺たちで庇うにしたって限度があるんだぞ」
いやめっちゃ親切だなこのハゲ。
え? ていうかさっきまでの話、俺を追い出したいとかじゃなくてガチで心配してただけなの?
「正直に指摘してやればよいではないか。落ちている塵屑を拾うことしか能のないゴミは、戦士たちが己を競う華々しい戦場に相応しくないと」
俺が人情の気配にほっこりしていると、人情なんて欠片も感じない傲慢な声が響き渡った。
げんなりしながら視線を向けると、先日同様に女二人を侍らせた――えっその二人戦闘員だったの!?!?――褐色肌の男神がいた。
「ゴミがここによくもまあ顔を出せたものだ。戦いとは何なのか、分かってもいないだろうに……恥をかくだけならともかく、命を無為に散らす結果となるのは割り切っているだろう? ゴミらしく家に帰るがいい」
好き放題言われている。
流石に場の空気が冷たいものになっていた。
単純に男神が顰蹙を買っている――というわけではなく、彼の言葉にうんうんと頷いている人間も結構な数がいた。
さっきのスキンヘッドの人、もしかしてレアだったのかもしれない。
「勘違いしてもらっては困ります」
だが颯爽とヴィクトリアさんが立ち上がった。
俺自身が言い返すわけにはいかないので、どうしたものかと思っていたが、やはり頼れるのは女神様か。
きっとなんとかしてくれるはずだと思って彼女を見つめていると、ヴィクトリアさんが口を開く。
「彼はゴミではなく、ゴミを拾う側です」
しーん。
余りに場の空気が終わりすぎて、俺が一番つらかった。
この女神様に期待した俺がバカだったわ。
◇
攻撃作戦がついに始まろうとしていたそのころ。
クラーク領市街地から少し離れたところにある、犯罪者たちを勾留するための施設。
独房の一室には、トールに敗北して捕らえられた汚泥のカウントフェイスの姿があった。
本来なら彼が一人でいるはずのその場所なのだが。
今はもう一つだけ、どこから入ったのかも分からない人影が独房の中にあった。
「迎えに行ってもらうだけの予定だったから、魔導器しか渡していなかったけど……負けて殺されるならともかく、まさか完全に無力化されて捕縛されるとはね」
「……申し開きのしようもないです、しくじりました。女神ヴィクトリアの飼い犬に、想定以上の手練れがいます」
カウントフェイスの言葉に、独房をきょろきょろと眺めていた影が動きを止めた。
月明かりに照らされ浮かび上がったのは、仮面をつけた長身の男である。
「それは……事前データにはなかった顔かい?」
「はい、黒髪赤目の男です。出身世界までは分かりませんが、魔法に類似した何かを使っていました」
「ふうん、新入りか。案外、『泥の巨神』を祓ったっていう、神々の隠し札クンだったかもしれないね」
影は面白そうに声を弾ませた。
悪癖が出たな、とカウントフェイスは少し表情を歪める。
神への憎悪を持つという共通項で集まった背信者たちだが、大幹部が一人であるこの上司は、神を殺したいのと同じぐらいに強い敵と戦いたいという欲求を抱えている。
「誰だ!?」
「おっと」
異変に気づいて踏み込んできた衛兵が、瞬時に首筋から血を吹き出して倒れた。
「もう見つかったか、優秀だねえ。じゃあここらで失礼するよ……やることは分かっているね?」
「はい」
背信者たちへの大規模攻撃作戦が開始されようとしているその時。
ほぼ同時に、捕縛されていた汚泥のカウントフェイスが脱獄し、戦場へと向かい始めるのだった。
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