第16話 神殺しの挑戦
並んだ食事を、俺とヴィクトリアさんが片っ端から胃に収めていく。
さすがは高級店、素晴らしい味付けだ。
っていうか多分だけど
「えー……ものすごい勢いで食べてるけど、ちゃんと聞いてくれるんだよね?」
俺とヴィクトリアさんが揃って頷くのを見て、ショタ神様は嘆息する。
「じゃあ信じて話すけど……数千年前、僕は『捻れ木』という勉強会に参加していたんだ。魔法だけではなく、神々が人々に与える加護についてもそれぞれが研究し、意見を交換するっていう集まりだった」
話のスケールがでかい。ヴィクトリアさんも、箸は止めないままに目を見開いている。
実年齢は知らないけど、女神になってまだ半年だっていうもんな。数千年前のことなんてわかるわけもないだろう。
「その研究会はある事情で随分と前……千年以上前に解散したんだけど。今回使われていた『神殺しの毒』はその研究会で色々と話し合っていた代物だ」
それあなたのせいじゃない?
「……そんな目で見ないでくれたまえ。僕だって当時は、色々と殺したい奴がいたんだよ。それに計画は頓挫したはずだったんだ」
怖いフレーズが聞こえまくった。計画が上手くいかなくてよかったよ。
いや、いかなかったはず、か。現実としては、何やら似たようなものを引っ張りしてくる怪しい連中が跳梁跋扈しているわけだ。
「というわけで僕はクラーク大戦神に許可を取って、最近活発化している背信者たちへの攻撃作戦の指揮官になったわけだ」
ほえー、と俺は感心してしまった。
なんか
「まあ……ともかく今日の一件で、背信者たちの強い信念を確認することができた。現段階ではまだ神々への完全な殺傷能力を獲得したとは言えないけど、準備を進めているんだろうね」
それはカウントフェイスの野郎の話を聞いていても思った。
最終的に殺してやるよ、という強い気概を感じたし、目的を定めてきちんと計画を立てて進めていくという敵集団が持っていたら嫌なスキルを全部持っていた。
「アルバートとトール君には、敵の力を測るための指標になってもらいたかったんだけど……それで変に敵の力を見定めようとして、向こうの初見殺しにハマっても困るからね。率直に戦った意見を聞きたい」
ハフハフと肉豆腐を食べていた俺は、ちょっと待ってと手を突き出して首を振った。
えーと、何? 戦った感想?
「んぐ……えっと、あれですね。統率は取れてましたし、個々の忠誠心も高くて、正直これが反体制側の組織なのは嫌だなあって思いました」
「戦力としては、君からすれば幼子に近かったかな?」
「ナメることはできないかな~と思います」
仮面を壊した後の、カウントフェイスの顔が脳裏をよぎる。
あいつの戦う理由は自分の過去に根差したものだった。途中で誰かに唆されたのだとしても、あの怒りの炎の火元は間違いなくあいつ自身だ。
「ああいう、根っから神様を恨んでる連中で揃えてるんだとしたら、その執念を甘く見ると痛い目に遭うと思います」
「……なるほど、ありがとう。肝に銘じておくよ」
そう言って、
思っていたより油断しないというか、ちゃんと策謀を回せる側のショタっぽいし……そこは俺が心配しなくても大丈夫かな。
「それより、アルバートは大丈夫だったんですか」
「彼なら大丈夫だよ。聖騎士は死にかけてからが本番だからね」
死にかけてからが本番だったら、多分それは人間じゃないんじゃないかな。
◇
一通り
「アルバートがダウンしてるわけですし、代わりに護衛した方がいいすか?」
「それは大丈夫だよ。拠点の管轄を担当してる幹部がやられたんだ、今夜は大人しくしてるだろうし……」
ふわりと浮かび上がって、彼は唇をつり上げる。
「アルバートがいない時を狙ってくるのなら、こちらも神様の怖さってやつを教えてあげるしかないからね」
闇夜の中で、彼の両眼が神秘の輝きを宿して妖しく光る。
垂れ流される神秘が、矮小な人間の身体を圧し潰そうと全方向から襲い掛かって来た。
おー、怖い怖い。これだから神様ってやつは嫌なんだ。
「じゃあそっちこそ気を付けて。ちゃんとヴィクトリアを守ってあげてね」
「はーい」
そう言って、
「やれやれ……大変でしたね、ヴィクトリアさん」
「まあ、
そう言いつつも、女神さまは疲れた表情だった。
「とりあえず送りますけど、どこまで送ればいいですかね」
「ええと……神殿が見えるところまでいけば大丈夫だと思います。ちょっと周囲に住んでる人たちが、その」
「ああ了解です。F級のゴミクズが神聖な場所に近づくのが許せない人たちですね、まあ逆に安全だと思いましょう」
「う、すみません……」
おっと、流石に皮肉を全開にし過ぎたか。
俺はヴィクトリアさんと肩を並べて、夜の街を歩いていく。
通り過ぎていく人々や神々は、皆夜の騒ぎについて話しつつも、楽しそうだ。
「君が助けに来てくれなかったら、どうしようかと思いました」
そんな中で、ぽつりとヴィクトリアさんが言った。
「俺がいなかったとしたら、あなたたちが暴れて終わってたんじゃないですか?」
「そ、そうですけど、そういう問題ではありませんっ」
むーっと怒った様子を見せる顔も綺麗で、変な笑いが出る。
喜怒哀楽じゃなくて美美美美なんだけど。
「その、私はトール君に、やりたくないことをやらせている立場なので……ああいう時に、助けに来てくれると期待するのは少し、おこがましいことなのかなと……」
「え全然そんなことないでしょ。ヴィクトリアさんいなかったら俺その辺で野垂れ死にしてると思いますし」
別にゴミ掃除自体はやれるんだけども、モチベに関わるからな。
今まで通り、俺に対して腫れ物扱いしてくる連中が続いたら、そのうち適当なタイミングでやる気失くしてたと思う。
俺に優しくしてくれる巨乳の美人女神(女神に美『人』って合ってんの? まあええか)が上司とか、そりゃ生き甲斐にもなるってもんだよ。
「……それは少し、言い過ぎというか」
「いやほんとっすよ。ヴィクトリアさんじゃなかったら嫌ですし、あなたと会えて感謝してるんですから」
殺したくならない神様は初めてだ。
寄りにもよって神様相手なのに……もう俺の記憶の中にしかいないあの人を、痛烈に思い出させる。
だから逆らえないと感じるし、今度こそ守りたいと思う。
まあ、こういう重ね方してるの、本当にキモいって思ってる自分もいるんだけどな。
そう思いながらの発言だったのだが、気づけば隣からヴィクトリアさんの姿が消えていた。
振り向けば、少し前に彼女は俯き、立ち止まっていたらしい。
「ヴィクトリアさん? どうしました?」
「は……」
「は?」
「恥ずかしいこと言い過ぎです~~!!」
ヴィクトリアさんは顔を隠して、バタバタと走り去っていった。
いやいやいやいやいや!
「あっちょっ待ってください! 俺あなたの護衛なんですから! ていうかそっち逆方向ですからね!? ちょっとお!」
慌てて彼女の背を追いかけるべく、俺もまた町の中を走り出す。
人々の暮らしの喧騒の中に、俺と神様の追いかけっこはごく自然なものとして混ざっていくのだった。
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