第15話 神様たちの思惑
「ぐばっ……」
仮面が砕け散り、両腕の魔導器がボロボロに劣化して朽ち果てる。
俺に両断された汚泥のカウントフェイスは、ゆっくりと地面に倒れ込み……それから、ハッと目を見開いた。
「な……なんだ……死んで、いない……!?」
「聞きたいことが山ほどあるんだから、殺すわけないでしょ」
俺が『
敵を叩き切ることは可能であるものの、本質はあくまで焔。
「斬りつける瞬間に刀身を分解して、あんたの体の中に俺の力を潜り込ませた。白状したくないのなら脳を劣化させて無理矢理言わせるし、口蓋に仕込んであった自決用の魔法も解除させてもらった」
俺の言葉に、仮面の下から現れた厳めしい男の顔が歪んだ。
「……そこまでの汎用性があるとは、驚くべき力だ」
「何か勘違いしてると思うけど、これは俺が神様からもらった力じゃないよ」
そう言うと、微かに男が目を見開く。
こんな力を渡してくる神様、嫌過ぎるでしょ。
「まさか、この世界に来る前から、それほどの力を?」
「悪いけど、俺の世界は色々と特殊だったらしくてね……」
ちらりとヴィクトリアさんたちへ視線を向ける。
幹部級をつり出すことに成功したんだ、特に
「俺も、まあ、神様たちは嫌いだよ。あんたもそうなんだよな?」
「……君は元々背信者だったのか?」
「ああいや、言葉が足りなかったな。俺は神様なんて大嫌いだけど、今は町で暮らしてるよ」
「そうか……」
少し悩んでから、汚泥のカウントフェイスが口を開く。
「……元の世界では、娘を生贄に捧げさせられたんだ」
「!」
こちらへと近づいてきていたヴィクトリアさんたちの足が止まった。
俺も数秒、息をするのを忘れてしまった。
「だから神を殺したい……そのための手段だって手に入れている」
「……ああ、そうだ、聞こうと思ってたんだ」
頭を振って、やつの過去話を聞いての揺れを打ち消す。
同情している場合じゃないし、同情するような立場でもない。
「やっぱり、お前たちに協力している神様がいるよな?」
俺が発した疑問に、男が目を見開き、ヴィクトリアさんが息をのむ。
平然としているのは
「そうとしか考えられないんだよ。あっちの賢い方の神様は予想してたみたいだけど……」
「そうだね、僕はむしろ、そうじゃなかったら本当にマズいと思っていたよ」
ああ、確かに。
聖騎士をダウンさせてしまうような装備を人間が独自に作り出してたら、普通に最悪だもんな。
「さて……ま、気の毒な事情があるのは分かったよ」
少年としか言いようのない見た目の神様が、微笑みながら男へと近づく。
「でもそれとこれとは関係ないかな」
思わず、俺は間に割って入りそうになった。
だがそれを
「やめておいた方がいいよトール君」
「…………」
「君はただのF級清掃員でいたいんだろう?」
それは、そうだ。
俺は唇を噛み、沈黙する。
この男はヴィクトリアさんたちを攫った連中の上司だし、俺にも襲い掛かって来た。庇ってる義理なんて何一つとしてないんだ。
「それにほら、僕って優しいから、傷つけたりしないよ」
「え?」
そう言って
神聖さに満たされた彼の呼気が、男を拘束している『
「うん、出力制限中の君相手ならこれぐらいはできなきゃね」
満足そうに頷いた後、彼はしゃがみこんで、汚泥のカウントフェイスと視線を重ねる。
「……ッ。何も話すことなど!」
「『捻れ木』の連中は元気かい?」
それは尋問というよりも単なる会話だった。
共通の知人の近況を聞く時の、軽く、さりげない声色。
だが汚泥のカウントフェイスは、ぽかんと口を開けたまま固まっていた。
「……なんだそれは」
「ありゃ、君は知らない側か」
それだけの簡潔なやり取りだった。
「彼は大した情報は持っていなさそうだね……今回はハズレかな」
「俺とヴィクトリアさんを巻き込んでおきながらハズレってなんですかハズレって!」
指を数度振って汚泥のカウントフェイスをもう一度拘束した後、
「でも僕ってば、ニヤニヤ笑ってるショタ神様だからねえ。中途半端に陰謀を巡らせてるけど最終的には逆転されそうってよく言われるしぃ? だったらちゃんと味方を騙すところから始めて、徹底しようと思うよねぇ~?」
「…………」
ヤベェそれ全部前に俺が言ったことだわ。
めっちゃ根に持たれてたっぽい。土下座したらなんとかならねーかな……
◇
きっちり無力化された汚泥のカウントフェイスを警察に突き出した後。
俺とヴィクトリアさんは
「ここはF級でも入れるのさ。ちゃんと確認しておいたからね」
「ははは……」
二柱に連れてこられたF級の人間、と分かっていてもここまで来る途中、変な目で見られることはなかった。
どうやらこのショタ神様が気に入るだけあって、その辺はきちんと教育が行き届いているらしい。
「さて、というわけで今回は君たちに迷惑をかけたからね。好きに頼んでくれ」
「すみませんここからここまでください」
「あっトール君待ってください! それ全部二つです!」
俺とヴィクトリアさんが爆速でメニューを片っ端から注文して、
「え……それ……食べられるの……?」
「あ、はい。普段は金ないので我慢してますけど、いけますよ」
「私も学校で保管されてた無限に塩漬けの肉が出てくる壺を三つほど枯らしたことがありますからね、心配ご無用です!」
自信満々に告げる俺たちの言葉を聞いて、
「……確かに僕、中途半端に策謀を練って、最後にぎゃふんって言わされるのがお似合いなのかもね」
急に自信なくしててウケる。
「じゃあ、まあ、食べながらでも聞いてくれよ」
「俺が聞いてもいいんですか?」
「色々と事情が変わったんだ。これはトール君にも聞いてほしいし、あとでアルバートにも伝えておくよ」
それから彼は居住まいを正して、今回の騒動に関しての裏の事情を話し始めるのだった。
「あれはそう……ざっと数千年は前のことだった」
「ヴィクトリアさんやばい! ここ定食用のごはんに少し足したらジャコごはんにできる!」
「なんですって……トール君、百個頼んでください」
「聞けよお!!!!」
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