第10話
その詳細の打ち合わせで、編集者は開口一番言った。
「女性の私から見てもアリサさんの容姿は魅力的です。それと、いわゆるキャバクラ嬢と小説、それもテーマが交通事故遺族となると話題性は大きく、売れ行きに大きく影響すると思います。そこを強調して大々的に広告を打とうと考えています」
なんだそれ……と思ってから、遅れて怒りがきた。
この小説はゆきが書いたものだ。あの子そのものだ。そこにアタシの容姿や仕事は全く関係ない。編集者はそれを知らないから無理はないが、受け入れられるものじゃない。
「小説におまけをつけるんじゃなくて、小説だけを売ってください」
アリサは低い声で言った。
編集者も何かを察したのか「おっしゃる事ごもっともです。ただ、昨今の出版不況の中では何か販売戦略がないと――それに売れれば売れるほど印税が――」
最後まで聞かずにアリサは言った。
「小説だけを売ってください。私の顔とかキャバ嬢とか、そんな事は一切出さないで下さい。「ゆき」というペンネームだけで、顔もプライベートも一切出しません」
編集者は一瞬、呆けたような顔をしてから言った。
「お気持ち承りました。そうしましたら一度、上と相談させて下さい。ただ、それですと書籍化そのものが立ち消えになる事も……」
揺さぶりか? 日々駆け引きに明け暮れてんだから、学はないけどその辺は得意だよ。キャバ嬢なめんな。アリサは、そう思いながら言った。
「かまいません。一切合切なかった事にしてください。それともう一つ。本の表紙に必ず添えてほしい一言があります」
思いついたばかりの一言を伝え、出版社を後にした。
会議室を出る前に振り返り「上の方と相談して、結果はメールで教えてください。交渉の余地はないです」そう言った。
ここまで強硬に独断で決めてよかったのかとアリサは思ったが、独断しか方法がない。それに、なんてったってアタシはゆきに全権まかされてんだ――。
そう自分を納得させ、出版社を後にした。
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