第8話

 翌朝――目が醒め、YOMOKAKOを覗いてみた。

 アクセス数もコメントも爆発的に増えている。


 まかせるっていうのは、このコメントの事?

 とてもじゃないが1件1件には返せない量だ。 


 こんな時、YouTubeとかじゃ、まとめてお礼の言葉とか書いてんな。よし、それでいこう。でも、私じつは死んだんですとは言えねえもんな。ゆきの丁寧な口調で病気でしたって感じで書くか。

 

 アリサはネットでお礼の書き方をいくつか調べ、


「入院のため更新が遅れました事をお詫び申し上げます。たくさんの方に読んで頂き感謝でいっぱいです。コメント全てに返信したいところですが、まだ全快といかず叶いません。この場で皆様にお礼を述べる形を取らせて頂く事をお許し下さい。誠にありがとうございます」と書いた。


 これで完遂だ、完遂。ゆき、後はもう知らないよ。


 でも、そうはいかなかったのだ――。



 ゆきが小説を完成させ四ヶ月が経ったが、アクセス数は伸び続けていた。


 そんな頃、見慣れないアドレスからメールが届いた。「書籍化をぜひ考えて頂きたい。会って話がしたい」という出版社からのものだった。新手の詐欺かと思ったが発信元は確かだった。


 ゆき、大変だよ。本にしないかって言ってきてるよ。

 おーい、ゆき。成仏しちゃったんだもんね……仕方ないね。成仏はきっといい事なんだろしね。


 どうしたもんかと、ベッドにごろんと横になった。


―― アリサさん、アリサさん。


 ゆき! よかった、大変なんだよ、出版社がね、ゆきの小説を書籍化したいってのよ。


―― あの時言ったようにアリサさんに全てお任せします。


 おまかせしますってアタシは何にもわかんないんだよ。印税とかも、どうすんのさ?


―― それも全部お任せします。あっちにいてもアリサさんが私のためにしてくれた事、全部知ってます。


「いや、まあ暇だったからさ」


 ゆきは黙ってほほえむ。


―― 私は小説を完成させられただけで十分。本になるなんて夢にも思った事ないけど、うれしい事です。


 そこで目が醒めた。

 

 夢か……そうだよね。

 一人のしみったれた部屋で、アリサはボリボリと頭を掻いた。



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