第6話

 ―― どう言えばいいか、一口に交通事故被害者遺族といっても、本当に色々で。良いのか悪いのか私には両親の記憶も事故の記憶もありません。

 でも、あの事故で奥さんと娘さんを亡くされた遺族の一条さんは違う。愛してやまない奥さんと娘さんを突然、奪われた。生き地獄のような毎日に歯を食いしばって耐えて、今は裁判をはじめ色々な事と闘ってるけど、いつか、ふっと命を断ったりしてしまうんじゃないかって。


「……そだね……あり得なくないかもね。すごく家族を大切にしてた感じだもんね」


―― 思ったのは、この人にはいつか新しい家族が必要なんじゃないかって事でした。奥さんや娘さんの事を忘れられるはずはない。でもそれを承知で、その上で新しく一緒に生きていく家族が必要なんじゃないかって。

 でも、その道には途方もない苦悩やジレンマが伴うはずです。それを小説として書いて……なんて……一条さんの目に止まるはずもないのはわかってるんですけど、それでも書かずにいられなくて……。


「……うん、わかる。あの人を励ましたいって思ってる人、多いんじゃない? で、あんたのその想いが小説ににじみ出てて、たくさんの人が読んでくれたんじゃない? 頭悪いからうまく言えないけどさ」


―― だとしたら、すごくうれしいんですが……。あ、あの、お願いしたい事があります……


「な、なに? まさか私に続きを書けってんじゃないでしょうね?」


―― すいません、そのまさかです……。


「いやいや、ムリムリムリ、自慢じゃないけどアタシは高校中退だし、漢字もろくに知らないし、小説なんて一冊も読んだ事ないもんね。そんな奴に小説が書けるはずないでしょ」


 アリサさんは打ってくれるだけでいいんです。それを私のIDでアップしてくれるだけで。


「それって、スマホでできるの?」

 いや、何を聴いてんだ私は、とアリサは思ったが、


 間髪入れず、

―― できます!

 幽霊とは思えぬパワフルさで、ゆきが言った。

 

「あ、あれだよ、毎日とかは無理だよ」


―― もちろんです。アリサさんの調子の良さそうな時を見て、うかがいます。


「あーうん、わかった、わかったよ」


 その言葉を聴くと安心したような表情を浮かべ、ゆきは、すぅーっと消えていった。


 知らぬ間にすっかり感情移入してしまっていたアリサは、一人つぶやいた。

 「まいったね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る