第5話

 夜中にあんな事があったせいか、いつもより眠り込んでしまった。遅刻寸前で店に駆け込む事になったが、どういうわけか上客に恵まれ、結構な稼ぎになった。上機嫌で真夜中の自宅に辿りついた。


 来るっつったけど、いつ来るかわかんないよな……。まあ、いいや。

 そう思い、いつものように過ごしていると、


 ―― あの、こんばんは。


 あ、来たね。

「いらっしゃい」 

 いらっしゃいじゃないだろ……と自分にツッコミながら、アリサは言った。


 女幽霊の顔がうれしそうにほころぶ。


「あんた――」


 ―― あ、あの、私ゆきっていいます。ひらがなで「ゆき」です。お名前教えてもらってもいいですか?


「ああ、アリサだよ。アタシはカタカナね」


 ―― かっこいいですね。


「はは、親がアタシがバカな事を見越してカタカナでつけてくれたんだろね」


 ―― そんな……


「いや、そんな事より昨日、ある人に書いたって言ってたけど」


 ―― はい。ある交通事故の被害者遺族の方です。


「知り合い……なの?」


 ―― いえ、全くの他人です……。あの、数年前に港区で高齢者の暴走で母子が亡くなった交通事故をご存知ですか?


「ああ、そりゃ知ってるよ。すっごいニュースになったじゃん。ほんとにひどい事故だった……」


 ―― 実は私も、交通事故の被害者遺族なんです。

 

「え? 遺族? きのう交通事故で死んじゃったって言ってたけど、遺族でもあるの?」


 ―― はい。私が3歳の頃の事で記憶はないんですけど、家族旅行の際の高速道路での事故だったそうです。私は後部座席で母に覆われて、ほぼ無傷だったらしいですけど、父と母は……。


「……守ってくれたんだろうね。そっかあ……。じゃあ施設とかで育ったの?」

 

 ―― いえ、祖父母に育ててもらいました。私が高校を卒業すると、何の恩返しもできないうちに二人とも立て続けに亡くなってしまって……。


 ありきたりの慰めの言葉も言えず、アリサは黙った。


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