第3話

―― いきなり、すみません。実は私、ここについ最近まで住んでたんです。でも交通事故で死んでしまって……。


 アリサは不動産屋の営業マンが言っていた事を思い出した。

「以前住んでた方が事故で亡くなられて、いえ、部屋の中じゃなく交通事故で。だから部屋には影響ないんですけども……」 


 それなら告知義務はないはずのに誠実な奴だと好感もったのに、しっかり部屋の中に出てきやがるじゃねえか、あの野郎……。

 

 そう心の中で毒づくと、ようやく声が出た。


 「いわゆる幽霊……なの?」


 コクリと女幽霊はうなずいた。


 まじか、幽霊ってほんとにいんのか……。


 アリサはベッドの上であぐらをかき、頭をかきむしりながら言った。

 

「ええーとさ、アタシ何もしてあげられないよ。お経だって読めないし、今の今まで幽霊なんて信じる奴はバカって思ってたような奴だし――」


―― という事は、今は、幽霊を信じて?


「だって、あんた幽霊なんでしょうが」


―― はい……


 申し訳無そうに、女幽霊はうなずく。


「いや、まあその、なんていうの、責めてるわけじゃないけどさ、あんただって出たくて出てるわけでもないだろうし」


 なんでアタシはこの女幽霊をかばってんだと思いながら、アリサは言った。


「いえ、あの……出たくて出てるんだと思います」


「はっ? 出たくて出てる? なんでよ?」


―― どうしてもやり遂げたい事があって。でも、それはこうなってしまった以上無理で……。


「未練が残ってる?」


 またコクリと女幽霊はうなずく。


「その未練ってのは何なの?」


 ―― 私、小説を連載してたんです。たくさんの方が読んでくれてて。でも、いよいよクライマックスという時に……


「事故に遭って、死んじゃった……?」


 女幽霊はうなずく。


 なるほど、そういう事か。そりゃ未練も残るか……。

 


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