第4話

 X日Y月、この事務所で働き始めて5年ほどが経った。


 事務所はいつの間にか研究所のようにもなり、新しくビルを作って本社を移そうかという話も出ている。


 そういう話は下の人たちに任せて、俺と所長はこの事務所の本来の目的を進めていた。


「〇〇、ばぁべるの破片を取ってくれ」


「バーベルはまだ壊れてないですよ」


「はぁ?6年前にばぁべるが壊れてなかったらこんな面倒な世界になってないだろ。

 ……あぁ、また翻訳機の不具合か」


 ため息をついて、こう続ける。


「そこにある石、バァベルBabelの塔の破片を取ってくれ」


 所長が指差す先には、強化ガラスで囲われた、コンクリートが少しついた石がある。


「そいつの解析結果をうまく装置に組み込めば、翻訳装置ももっとよくなるはずだ」


 破片を所長に渡すと、パソコンに繋がっている特殊な装置にそれを置いた。


「そっちの装置も貸してくれ」


 言われるままに、メガネ型の翻訳装置とイヤホン型の翻訳装置の両方を外して所長に渡す。


 所長が装置を専用の機械に置くと、バベルの破片からパソコンを通り、装置までのコードが青白く光った。


 これは想定内のようで、そのまま所長はパソコンを操作する。


 さらに光が強くなる。


 光のせいで何も見えなくなったが、数分後にはその光も収まった。


 目が元に戻ると、所長が翻訳装置をつけるように身振り手振りで促していた。


 つけると同時に、所長は興奮した様子で話しかけてきた。


「これだ!これこそ、俺たちが求めていたものだ!

 6年前と同じ喋り!6年前と同じ文字列!

 これを量産すれば未だ混乱が残っているこの世界を、元に戻せる!」


 そう言いながらも、量産に必要な機械・費用などを考えてメモをしているようだ。


「所長、興奮しているのもいいんですが、少し聞きたいことがあるんですよ」


「おぉ?なんだ?」


「バーに注文をするベルと、おばあちゃんを呼ぶベルってなんて名前なんですか?

 毎回、『ばぁべる』みたいに聞こえるので正直よくわかんなかったんですよ」


「ああ、そんなことか。

 それぞれ、バーのベルトばあちゃんのベルだ」

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ばぁべる ミンイチ @DoTK

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