第2話

 ☓月◯日、この事務所で働き始めて△ヶ月が経った。


 この間に、新しく人が入ってきたりもしたが、今日は久しぶりに所長との2人だけの日だ。


 少し前に貰った自分の机で昨日の仕事の後処理をしていると


「ちょっと忙しいな……

 おい〇〇、そこのばぁべるを押してくれ」


「バーベルですか?」


 俺はドア近くに移したバーベルBarBellに近づく。


「今日は何を頼むんですか?」


「は?何いってんだ?」


 イマイチ言葉が噛み合わない。


「俺が言ってるのは、そこにあるばぁベルだぞ?」


 指差す先には、壁に掛かった古めのベルがあった。


「これ、ですか?」


「そうだ。

 そのベルを鳴らしたら隣の部屋のばぁちゃんが手伝ってくれるんだ。

 今は言葉はわかんないけど、かなり昔からの繋がりだから、今でも続いてるんだ」


 そう言って、懐かしそうにばぁベルを鳴らすための紐を引く。


 ベルが鳴ってから数分後、朝によく見る隣のおばあちゃんが事務所に入ってきた。


「今日も頼みますよ」


 所長がおばあちゃんに書類を渡すと、おばあちゃんはにっこり笑って、軽く頷いてから所長の隣の机に座る。


「そこ、おばあちゃんのためだったんですね」


「そうだぞ。

 ばぁちゃんは若い頃は凄腕の事務員だったらしくてな、凄い量の書類を、すごい速さで処理してくれるんだ」


 たしかに、俺達と比べてとても早く、書類の山が切り崩されていく。


「〇〇、お茶を入れてきてくれ。

 茶葉は一番いいやつだ。

 いつも、手伝ってくれたお礼に美味しいお茶と和菓子をご馳走してるんだ」


 事務所の給湯室に行ってお茶を入れ、冷蔵庫から所長が隠していた和菓子を3人分用意して持って行く。


「持ってきましたよ」


「ありがと…な!?」


 所長が隠していた和菓子は、このお茶と食べるととても美味しかった。

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