エピローグ

第49話夢の続き

 目を覚ますと、病院のベッドに秀繁は横たわっていた。

 戦国の世ではありえないほどの白、白、白。一面の白。

 死後の世界とはこんなにも単調で味気ないものだったのか、と今現在生きているのか死んでいるのか判断が付きかねるものだった。


 体――は動く。火傷のあとが少しある。今までのすべてが夢幻だったかのように、カーテンからこぼれる日差しが秀繁を照らす。


「おおっ、秀繁、意識が戻ったのか」


 それは現代では自暴自棄を起こし、火事で亡くなっていたはずのであった。


「すぐ母さんに教えなきゃ……」


 そういうとは走って病室を出て行った。


 秀繁は混乱した。


――今自分は死んだばかりなのに、どうしてこんなことになっているんだ?


「ああっ秀繁、目を覚ましたのね!」


 前世・・では父を見限って出て行ったはずのまでもが出てきた。


「母上? 私はいったい……」


「なに意識が戻ったとたん時代劇みたいな話し方をしてるんだ。だいたいお前の一人称はいつから『私』になったんだ」


 そういって父は秀繁をからかう。その言葉に不思議ななつかしさと郷愁がこみあげてくる。


「父さん、母さん……なの?」


「なにを言っているんだ。おまえは両親の顔を忘れたのか」


「無理もないわ。三ヶ月も意識が戻らなかったんですもの……」


 そうか、三ヶ月か、と父は呟き、


「お前は屋敷が火事になったのに巻き込まれてしまったんだ。まったく大学の合格に浮かれているからそうなるんだ」


「だいがく?」


「そうだ、今は休学扱いにしてもらっている。これからはリハビリもあるだろう。まあ通えるのは来年からだと思っておいた方がいい」


「みんなから1年も遅れちゃったんだから、しっかり取り戻さないとね」


 そう言うと両親は安堵したのか、二人ともやれやれとため息をついた。




 秀繁は入院中、インターネットを使ってさまざまなことを調べた。


 はっきりと明治維新と言えるものは起きなかったが、秀繁の後嗣たちは秀繁の意を相続し汲み取り、大名制度という実質的な日本の封建制度はなくなったこと。

 大坂(大阪ではない)に皇居があり首都であること。

 沖縄は天皇家・豊臣家両方とも婚姻を結び日本と平和裡に合併したこと。

 日清・日露戦争に日本は勝ち、第二次世界大戦に日本は結局参戦し、資源不足のため負けたこと。


 そして豊臣家は旧華族の中でもトップとして君臨し、皇室の次くらいには影響力がある名家であること。

 教育が良かったのか両親は散財せず家産を保っていたこと。

 その上、ノーベル賞と同等の権威である豊臣賞というものを主宰していること。


 結局、秀繁の近辺で以前・・と実質的に変わったことと言えば、家にいくらか財産が残り両親が健在であり、そして秀繁が火事から生き残ったことくらいである。


 秀繁はウィキペディアで自分・・を検索した。




豊臣 秀繁(とよとみ ひでしげ / とよとみ の ひでしげ)は、安土桃山時代から大坂時代・・・・前期にかけての武将。大名。天下人。教育者。太閤・豊臣秀吉の長男。

秀吉の正室であった寧々(高台院)の第一子。子は正室・春子(名は小春。明智氏)との間に豊臣秀光と僕輝里室(おかつ・・・の方)、琴の方(北条氏)との間に北条氏秀、駒の方(最上氏)との間に最上義秀。位階は正一位、官職は太政大臣。幼名は小猿丸。父の天下統一に大いに貢献した後、クーデターを起こし父を追い落とし関白に即位。優れた政治力を持ち、身分を問わない人材登用で諸制度を整えて大坂時代の基盤を確立し、太平の世を築いた。騎馬鉄砲兵戦術を使った武力において卓越し、蒸気機関を世界で初めて実践した日本史上最高の名君の一人。大英傑。




 なるほど、自分がやってきたことは確かに夢ではなかったようだ。

 自分は、自分の未来・・・・・を掴むことだけは、歴史改変に成功したらしい。

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