第46話半右衛門
半狂乱と化し軟禁された秀吉が薨去し、
そしてまた、歴史の中で巨星であったと書き換えられ修正されるであろう存在も終わりの時を迎えていた。
「半右衛門、半右衛門、まだ息はあるか!」
「騒々しいですなあ」
そう言うと半右衛門は、病臥している布団の中から返事をした。
「こんなにうるさいと、逝くものも逝けないでしょう」
「そうであるか、すまん」
頓珍漢な受け答えを主従はする。
『うるさいと逝けない』のなら秀繁としては、いつまでもうるさくして半右衛門に生きていて欲しい。
いっそ、ちんどん屋もその歴史より早く開業させたいくらいなのだ。
「どうやら、私はここまでのようです。あとはせがれの半兵衛に、後事を託しております。私の代わりと思ってどうかよしなにしてくだされ」
目を瞑りながら半右衛門は言った。
「半右衛門よ、そなた私をこの時代に連れてきて後悔はしておらぬか」
ふふっと半右衛門は笑い、
「楽しい人生でござった」
と呟く。
「豊臣秀繁四天王の座は大吾郎、宗茂、信親、そしてせがれの半兵衛に譲るとしましょう。しかしながら大吾郎は悔しがるでしょうが、史書は豊臣秀繁の一の家臣、筆頭はこの神子田半右衛門正治であったと記すでありましょう。なかなかに面白い人生でござった」
「私を恨んではおらぬか」
それは秀繁が大名を潰すと言ったときから、一抹の不安として、ずっと心の中に潜めていた思いであった。
「今の私が、怨霊としてまた400年
半右衛門はまた笑う。
「大名としての神子田家は将来なくなるかもしれません。だが今回は
その言葉に秀繁は救われた思いになった。
「半右衛門よ、私のやろうとしていることは間違っていると思うか」
「歴史を400年早めることですか」
「そうだ。いつもの、そなたの率直な意見が聴きたい」
半右衛門は布団から腕を出し、秀繁の頭を撫でた。
「
半右衛門はいとおしそうに秀繁の頬に手をやり
「それが正しかったか、間違いであったか。それはまた、若の子孫たちが偉そうに評価を付けてくれるでしょう」
それは義父である光秀の最期の言葉と同じであった。
その言葉が秀繁に永遠の別れを予感させざるを得ない。
「そういうものか」
「そういうものです。深く考えなくとも単純なことなのですよ」
秀繁は幾分初陣のときの問答を思い出した。
「それと……」
「それと、なんだ」
しかし半右衛門の手は落ち、それ以上の返答はなかった。
「父上っ!」
半兵衛が
神子田正治は400年彷徨ったあとその十分の一に満たない時間を秀繁と共有し、彼を戦国武将として育て上げ、そして今回は創業と守成に成功し世を去った。
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