第34話伊達家十七代当主
「伊達政宗という方は」
半右衛門が話題を変えた。
「徳川家康以上にあるいは厄介です。徳川どのは時流に乗って天下を簒奪されますが、伊達政宗という人は時流がなければ、自分で騒乱を作って時流を作ってしまおうという考えです。まさに遅れてきた戦国武将というだけあるようです」
「ほう」
「徳川どのは、関東250万石に移封されなければ、天下を取るほどの器量はあるいはなかったかもしれません。だが伊達どのは小勢であろうと、天下を望もうと細工、いや小細工と言った方が正しいかもしれませんが、策が多い人です」
そういう間にも『城を落とした』という注進がやって来る。
そして残された米沢城から、伊達政宗が降伏しにやって来るという風聞も。
「秀吉公からの使者です。伊達政宗が謁見を許されたので秀繁さまもご同席なさるように、とのことです」
伊達政宗は降伏するにあたって一番劇的な時期はいつかということを考えていたが、その間に領土を次々と侵されていった。
『こんなことなら戦う前から降伏するべきであった』ということに気付いたときはもう遅い。
それを思いついたのは、居城である米沢城を除いてすべて豊臣家に降伏した後であった。
彼は考えた。
(秀吉は派手好みである。降伏するにせよ伊達家の家財を傾けるような品を送り、古代の王がそうしたように死に装束を纏い、両手を後ろに縛り秀吉の虚栄心を満足させてやるのだ)
考えがまとまるや否や彼はすぐに秀吉の本陣に降伏に赴いた。
しかし秀吉は会ってはくれない。
そこで詰問に来た使者に
『末期の思い出に、名高い利休殿に茶の湯を習いたい』
と申し出た。
この行為は秀吉の心を多少なりとも動かし、謁見を許されることとなった。
「関白殿下にお初にお目にかかりまするは伊達家が17代当主、藤次郎政宗にございます。このたびは拝謁を許していただき恐悦至極に奉りまする」
「ふむ、わしが豊臣家の初代じゃ」
ぎゅっと睨みつけるように、秀吉は政宗を見つめる。
「遅かったな」
「申し訳ありません。東北は殿下のご威光を知らぬものが多く、諸問題を片付けるのに苦労しておりました」
「ほうわしの威光を知らぬと申すか。その筆頭がそなたではないのか」
「滅相もございません!」
政宗は叫ぶかのように言う。
「殿下のご威光を知らしめるために、私は諸国に調停者たるべくいたしたのですが、殿下に反抗するものが多くその
「ほう」
「殿下に反抗する気は、
秀吉はのっそりと歩き出し政宗の目の前に立つ。
そして持っていた杖で政宗の首をピシャリと叩き、
「利休に茶を習いたいと申したと聞いた。死を前にして茶を習いたいとはたいしたタマよ。それがなければ、そなたのここは胴から離れておっただろう。これで天下統一は完成じゃ。運のいいやつよ。その祝いに免じて命は助けてやろう」
「はっ。ありがたき幸せに存じまする!」
政宗は内心ほくそ笑む。
(賭けに勝ったのだ。領土は狭くなろうが命までは取られない。秀吉は高齢で死ねば天下は再び乱れ、英雄を必要とする時代がまたやって来る!)
「首を胴から放つべきでしょうな」
そう言ったのは豊臣家の2代目であった。
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