第6話三国一の葬式

「お前らが付いておいてなんたる様じゃ!」


 秀吉の声は大きい。

 彼は日本三大大音声のひとりとも言われる。

 それに悲しみと怒りの感情が紛れ込めば、普段の三倍以上の大きさも出るというものだ。


「うっ、うっ、小猿丸よぉ」


 悲哀が流れ出している。

 秀吉の子供で成人したのは、秀繁が初めてだ。

 自身の後継者として、大いに期待をかけていた。

 羽柴家を大きくしても、それを継承してくれるものがいなければ、何のために戦いを続けてきたのか。

 おそらく、織田家は秀吉が死んだ時点で羽柴家の領地を召し上げ、改易するであろう。


「こんなことになるならば、戦になど出すのではなかった……」


 寧々も意気消沈している。

 夫がいろんな女に手を出しているのは知っている。

 それでも、生まれて大きくなったのは秀繁のみ。

 彼は寧々の将来の保証をしてくれるはずであった。


「我が家の一粒種が亡くなってこれから先、何を楽しみにして生きていけばいいのか」


「そなた、もう子は産めぬか」


「産めるのであれば、もう10人は産んでおります。こんなときに……」


 寧々は秀吉には子種がないのでは、と疑っている。

 あれだけ自分が愛され、その他のものもそれなりに遇して・・・いる。

 なのに、子供が自分が産んだ秀繁だけというのは、子種があってもかなり薄い・・のであろう。


「前田利家は子福者じゃ。ひとりくらいくれんもんかのう」


「そういうことを言っているのではありませぬ! 今は秀繁どののことをお考え下さい!」


「しかし、いくらせがれでも、死んでしもうたものはもうどうしようもあるまい」


 その言葉に、寧々はカチンと来る。

 秀吉は他の女に手を出せばまた子ができるかもしれない。

 だが、寧々にとってはもはや秀繁が最初で最後の子供なのだ。


「なんと軽薄な! 悲しもうという気はないのですか」


 カッカッカッと泣き笑いをしながら秀吉は言った。


「それでは、唐天竺にもその名が轟く、三国一の葬式をしてやるわい!」

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