4話

 7月の日々は、次第に暑さを増していった。充は出勤の登録を積極的に行い、会場設営やイベントスタッフの仕事に励んでいた。一方、亜美佳は飽きもせずホストクラブに通っていた。そうして、一週間が経つ。

 

 充は部屋にある時計を見て、そわそわしていた。


(約束の時間だ。遼はもうじき着く頃かな)


 今日の再会を心待ちにしていたにも関わらず、緊張が募る気持ちもあった。


 電話で遼がどこにいるか確認しようかと思っていると、玄関のチャイムが鳴った。来た!と思い、充は立ち上がった。


「いらっしゃい」と言いながら玄関のドアを開けた。

 遼と、ショートヘアの女性が立っていた。女性はおそらく原田だろう。遼は立ち上がるようなスポーツヘアにしていて、昔よりも大人びた印象を受けたが、一目で遼と分かる姿だった。


「久しぶりだな!なんだか、たくましくなったか?都会の波に飲み込まてるみたいだな」


「久しぶりだね」と充が言った。


 既に、充の心にあった緊張感はすでに消え去っていた。


「いや、本当。もう5年ぶりだよな。良かった、全然かわってないじゃん。これなら新宿歩いてても気付けそうだな」


「ははは、人が多すぎて顔なんて見てられないって」と充が返した。


「岡崎くん、久しぶり」次は原田が声をかけた。


「原田さんも、久しぶり」と充が会釈を返した。


 細長い顔の原田を見て、充は彼女が中学時代の原田であることを確信した。中学生の頃はほとんど話すことはなかったが、同じクラスになったことはないはずだ。


 原田のショートヘアは、実は首の少し上でお団子にまとめられていた。その淡い化粧が彼女の顔立ちに良く似合っていた。


「遼と付き合ってるって聞いたときは驚いたよ」と充が言った。


「まあな、高校の終わり頃からだから、なんだかんだで長い付き合いなんだぜ」と遼が説明した。


 その後、遼が「入ってもいいか?」と尋ねた。


「あ、どうぞどうぞ」


 充は慌てて二人を家の中へと案内し、リビングにあるクッションに彼らを座らせた。実家暮らしの遼と原田にとっては一人暮らしの環境が新鮮に見えたのか、興味深そうに辺りを見回していた。

 

「プリン買ってきたんだ。コンビニのだけど、一緒に食べよう」


 遼がビニール袋からクリームプリンを取り出しながら言った。


「ありがとう。僕もこれ好きだよ」


「お、うまいよなこれ。俺もCM見て食ってみたらおいしくてさ」と遼がスプーンも一緒に渡しながら言った。


「もう、だからディズニーシーでちゃんとしたもの買おうって言ったのに」と原田があきれたような様子で言った。実は昨日、ディズニーシーに行ってお土産を買うつもりだったことを充は教えてもらった。


「いいの、いいの!男は、そんな小さいこと気にしないって」と遼が言った。


 充と原田が目を合わせて笑った。遼の自分のペースを崩さない性格は変わっていなかった。そして、それが充と親しくなる理由の一つだったのかもしれない。充は、原田さんも遼のそんなところに惹かれたのではないかと思った。

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