2話
充はアパートの前に着いていたが、入り口近くを歩きながら遼との電話を続けていた。
随分と久しぶりに話したのだが、お互いにそれほど変わっていないなと思っていた。
充は遼の知っている充であり、遼は充の知っている遼であった。
昔話が一区切りつき、「あのさ、聞いてもいいか?」と言ったのは遼だった。声には先ほどまでの明るさが消え、深刻な調子が込められていた。充には、遼が何を聞きたいのか、なんとなく想像がついた。
「あれから、大丈夫だったのか?……その、色々と」
遼が言う「あれから」
それは、充の父が亡くなった時のことを指していた。
充の父は、彼が中学3年生の時に不慮の事故で亡くなった。母親は充が2歳の頃に離婚していたため、父親を失った後は、叔父と叔母のもとへ引っ越したのだった。
充にとって、父親の死を知らされたあの時期の記憶は今でも鮮明に残っていた。
死別の悲しみよりも、複雑な申し訳なさと安堵の感情が混ざり合っていたが、それを誰にも話したことはなかった。
電話の向こうの遼は、しばしの沈黙の後、「悪い、今のなし。気にしないでくれ」と返事を待たずに話題を変えた。
「ええと、金曜はディズニーに行く予定だからさ、土曜日とかどうよ?」
「わかった」と充はすぐに答えた。
「おっけー、また電話するわ」と遼が言った後、電話はすぐに切れた。
充は携帯をパタンと閉じた。気がつけば、周囲はすっかり暗くなっていた。
(遼、まだあのことを引きずってるわけじゃないよ。ただ、今の状況をどう話したらいいかを考えてたんだよ)
遼に久しぶりに会えることに、充は心が軽くなった。そんな気持ちで自宅に入っていった。
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