「稼ぐ亜美佳」
1話
亜美佳は自由だ。
「まあ、いつものことなのだけど」と考えながら、充は一人アパートへ向かって歩いていた。狭い路地に入ると、新宿の喧騒はすぐに消え去った。
亜美佳は「思いついたらすぐ行動」するタイプ。一方の充は、いろいろ考えるものの、なかなか決断に至らない。見習ってみたいものだが、自分には向いていないのだと感じていた。
充はぼんやりと空を見上げたが、特に変わったものは見当たらない。不思議そうに充を横目で見る男性が横を通り過ぎていった。
その時、ブブブと充の携帯が振動した。
折りたたみ型の携帯を開くと、見知らぬ番号からの着信だった。仕事関係か、もしくは親戚なのかと考えているうち、亜美佳のように即決即断することを心に決め、充は通話ボタンを押した。
「もしもし、どちら様ですか?」と充は慎重に電話の向こうの人物に尋ねた。
「充、俺だよ、遼。元気か?」
「遼?」と充は思わず声を上げた。
予想もしていなかった声の主。
それは充の小学校、中学校時代の友人、酒井遼だった。遼とは中学卒業後、正確には中学3年の11月以来会っていなかった。親友だったにも関わらず、充が急に引っ越す必要があったためだ。当時は携帯電話も持っていなくて、連絡先を交換することができなかった。
「久しぶりすぎるって。それに、どうして僕の番号を知ってるの?」と充が訊ねた。
「実はさ、お前の叔父さんと叔母さんのところに行ったんだよ。そしたら、東京に住んでるって聞いてさ、電話番号も教えてもらった。で、今はどの辺に住んでんだ?」
「ええと、新宿だよ」と充は少し恥ずかしそうに答えた。遼の反応がどうなるか、ある程度予想できていたからだ。
すっげ!めっちゃ都会じゃん!実はさ、来週の木曜日からさ、綾乃と一緒に東京旅行に行くんだけど、充に会えねーかなって思っててさ。どうだ、時間あるか?」
「もちろん!時間は合わせる。ところで、綾乃って誰だっけ?」と充が訊ねた。
「原田。原田 綾乃だよ。覚えてないか?」と遼に言われ、充はようやく同級生だったことを思い出した。ただし、ほとんど接点がなかったので、顔は曖昧な印象しかなかった。
「見たら……思い出すかも」と充が答えた。
すると亮は小さく笑った。
「充、声変わったな」と遼が言った。その反応に治して充が照れているのも、遼にはわかった。久しぶりだけど、充の本質は変わっていないようだった。
その後、二人はお互いの近況を話した。充が中学を卒業後に通信制高校に進学したこと、遼が高校の時に原田と付き合い始めたこと、時々充に連絡しようと思っていたけれど、なかなか踏み出せなかったこと。そして、遼が決心して充に電話をかけたことなど。
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