第42話 冥王は秘密を隠すことをしないんだ
ふたりを導き、心を繋げることに成功した
優しい子供の
前に見たときのような透明ではない。はっきりと輪郭がわかり、扉が開いていた。
「……もう、隠す気ないといった感じですね?」
「だな」
ふたりは苦笑いし、建物の扉を開く。
「──来たか」
扉を開けた瞬間、黒髪で三つ編みの青年が背中を向けて立っていた。ふたりの気配に気づいたのか、ゆっくりと振り向く。
凪の眉をもつ整った顔が、ふっと優しい笑みを浮かべた。足音を響かせながらふたりに近づき、真向かう。
「……親父、教えてほしい。俺たちのこと。俺と
青年は彼の頭を撫でる。そして
決して大きくはない目を、少しだけ穏やかに細める。
「……そっくりだ」
「……?」
何にそっくりだと言うのか。
「私の愛した妻にそっくりだ。大きな瞳に銀の髪、そして脆く崩れてしまいそうな儚い
髪を撫でるのをやめた──瞬間、
「ずっと、ずっと探していた。妻の忘れ形見を!」
涙を堪えているようで、声が震えていた。
──予想はしていた。私がこの人の子供だということ。でも……
そっと、青年の腕中から逃れる。隣で「
手を拳状にし、震えを我慢して深呼吸をする。
「私は……」
自分よりも頭ふたつぶんほど高い身長の青年を睨み、透明な声を放った。
「それが本当なら私は……教えてください。私と
──もしそうなら、私たちは犯してはいけないことをしてしまった。決して結ばれることはない。私の気持ちはおろか、彼の想いすらも砕かれるだけ。
「私はいいんです! でも
力なく青年の胸板をたたく。その瞳からは涙が溢れていた。
「……やはり母に似て、自分よりも他者を想う気持ちが強いんだな」
青年は、
「……?」
青年の表情や言葉の意味がわからず、
青年は背を向け、三つ編みを揺らした。
「……どこから話せばいいのか。少しばかり迷うな」
階段へと腰かけ、ふたりを呼ぶ。
青年は膝の上に両肘を乗せ、手の甲に顎を置く。天井を見上げながら、深いため息をついていた。
「……随分前のことだ。私が妻を
「
「……え?」
ふたりの声が重なる。それでも彼らは青年の話に横やりを入れることをせず、黙って聞くことにした。
そんなふたりの息のあった行動に、青年は苦笑いする。
「産まれた我が子の隣には、同時に生を受けた子供がいた。それが
「……ま、待ってください! その言い方だと、
「そうだ。
淡々と。感情があるのかさえわからない表情で、言葉を繋げていった。
今から約、百五十年ほど前のこと。
幽霊谷の近くにある町、
「私は妻とともに、子の誕生を喜んだ。もちろん、
どういう理由か。ふたりの子供は、知らない間に場所を入れ替えられてしまっていた。
「翌日になると私たちの子の布団にはお前が。
「……ん? 親父、それはどういう意味だ? それって普通に考えて、赤子を間違えたってことになるぞ?」
青年は無言で首をふる。
「後でわかったことだが、どうやら
産まれた翌日、ふたりの子供の内、ひとりの体から
その
「お前は、自身の扱う
「確かに、な。親父の子供なのに全然霊力ないし、
人差し指に
「……そう言えば、
落ちこみ気味な
「……いや、
あまにもあっけらかんとしている様子に、さしもの青年ですら肩をすくませる。
けれど
「え? そりゃあ、びっくりはしたさ。本当の親子じゃなかったんだから。でも、それがどうしたって俺は思うよ」
落ちこむ
「なあ
「え?」
何についてよかったと言っているのか。それが本気でわからず、
「だって俺たち、血は繋がってなかったんだ。兄弟でも何でもない。
「……あ」
──そう、か。
そう思っただけで、
こほんっと軽く咳払いをし、背筋を伸ばす。
「俺、もう一度
「……っ!? はい──」
──嬉しい。こんなにも、幸せな気持ちでいれるなんて。愛する人と添い遂げられる。それがわかっただけで、私の心臓は落ち着きなどなくなった。
そんなふたりに、青年は祝福の笑みを浮かべる。そしてふたりを抱きしめ、あることを告げた。
「
取り違えが起きなければ、辛くて苦しい体験をしなくて済んだのだろう。そう考えただけで、言葉にはできないほどの謝罪心が生まれていく。
そう、語った。そして……
「
運命に翻弄されたふたりに、心からの謝罪を伝える。
「お、やじ……」
明るさが取り柄の
両目に涙を浮かべ、微笑しながら頷いている。
「ははは、私の子供たちは泣き虫だな。おっと。大事なことを言い忘れていた」
「それは
それを聞いたふたりは驚愕した。紙を受け取り、静かに開く。そこにはきれいな文字で、淡々とすべてが書かれていた。
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