それは絶望ではなく、未来への希望
第41話 白月《パイユエ》ありがとう。いつかまた、逢える日を待っている
ロバには
途中、森の中で休憩をして焚き火を囲んだ。野宿のための準備を済ませ、
「ふふ、
「ん? どこだ?」
「うわぁー! マジか。ついてたなんて気づかなかったよ」
ありがとう
「
「……そう、ですね」
互いに、ほんの少しばかりの照れを笑顔で表した。それでもふたりはくっつき、冷たくなった手に息を吹きかけては抱きつく。
彼の言葉に反応した
──私も、彼も、お互いを好いている。それがどれだけ嬉しいことか。だけど……
血が繋がった兄弟かもしれない。このことが、頭から離れてはくれなかった。
信じていないわけではない。けれど悩むことが仕事の
「…………」
「──母上、大丈夫ですよ。母上が心配しているようなことはありませんから」
焚き火の反対側にいる
「先ほども言いましたが、何も心配する必要はありません。父上と母上は、お互いの想いを成就できますよ」
屈託のない笑顔をふたりに向けた。
「……僕は、嘘はつきません。父上と母上の幸せについてのことなら、なおさらです」
「
どう返答すればいいのか悩みながら、苦く笑む。ふと、あえて気にしないでいた子供の背中の物について尋ねた。
「えっと、その……背中の風呂敷は何ですか?」
すると
「ああ、これですか? この時代に来たときに持っていた物です。歴史を変えない程度の、必要最低限の物ですよ」
右手に持つ八角形の
「……えっと。なぜそんな物を持って、一緒に来ているんです?」
大きな目を瞬きさせながら小首を傾げた。銀髪がさらりと揺れる。
──ああ。多分だけど
何かを悟った。
口にしてしまえば、それが現実であるということが思い知らされてしまうのだろう。それでも
「…………昨日、未来から連絡がありました。狂っていた歴史は正されたそうです」
滅んだはずの
「霊力が回復したそうです。それから、母上が目を覚ましたとも書かれていました」
「──僕の役目は終わりです」
「……そう、ですか」
──そろそろ、この子も自分の時代に帰るときが来たのでしょうね。引き留めてはいけない。わかっているのに……
泣いてしまう。けれど、泣いたら
離れることの辛さと寂しさが混ざり、
「……
抱きつかれた彼は驚きはしたよう。両目を大きく開きながら、
「
右腕で
「母上を闇の底から掬い上げたのは、他ならない父上です。父上がまっすぐな心でいてくれたからこそ……母上を愛し続けてくれたからこそ、こうして笑っていられるんだと思います」
夜風に靡く髪を手で押さえる。両目を閉じ、静かに立った。
「……僕はもう、未来に帰ります。だから、ここでお別れです」
待っている人たちがいる。待ち望んでた大切な母がいるから。
そう、寂しそうに告げた。その手には古びた
「母上、あなたはひとりじゃありません。父上が、ずっと側にいてくれます。世界中のどんな人よりも、あなたの側にいてくれます」
「父上、もう、お気づきかと思いますが……僕の父上は、あなたです。僕は、
カチッという音とともに、最後の動物である虎が目映い光を放つ。瞬間、直前までの穏やかな輝きとは比べものにならないほど、強烈な光が周囲を包んだ。
「……っ!?
熱くなっていく目頭を擦った。瞳に映るのは、目映い光が柱となって天へと繋がっている光景である。その中に
すると、子供の体がふわりと浮かび上がっていく。同時に、体が透明になっていった。
「──大丈夫。父上は、母上をずっと愛しているから。母上も、父上を永遠に想っているから。ふたりが想い続ける限り、僕は笑顔でいられる」
すうーと、声すらも薄れていく。
「僕は幸せです。おふたりの子供でいられることが、愛してくれている事実があるのだから。だから……」
泣かないで。涙ではなく、笑顔を見せてほしい。
存在そのものが掠れていくなかで、嬉しそうに笑っていた。
「父上、母上、ふたりが想い合う限り、僕は必ず、あなたたちの元にやってくる。だから後ろを振り向かないで。前を見て。それが……」
「僕にとっての、大切な父上と母上なのだから──」
風とともに、
ざあー……
ここにいたはずの子供の姿はなく、夜風だけがふたりの頬を掠めていった。
「……私、あの子に恥じない大人になります」
堪えることのできない涙を頬に流し、必死に笑顔を取り繕う。
「だから、前を向いて行くと決めました。過去から逃げ続けるのは、もうやめます」
──
「
ふたりの大切な人に教わったのは勇気。
子供がくれた未来への可能性は、暗く閉ざされていた道に光を射すこと。
大切な友が教えてくれた。変えられない過去であっても希望を持って振り払えば、そこにあるのは光だということを。
「゛助けて゛という、たったひとつの言葉。この言葉を口にするだけで、私はあなたに手を貸してもらえる」
それは、今まで誰にも伝えることができなかった一言だった。心の奥にしまわれたそれを吐き出す。そうすることで、暗闇に光が生まれる。
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