第30話 滅びし鬼魂《グゥイコン》の主
「……母上、もう、ひとりで抱えるのはやめましょう? 僕も、それから父上だっています」
何もかもを見透かしたような表情だ。それを
「いや
もちろん進展はあるだろう。けれどそれは、ほんの一握りにすぎないはずだ。
「お前が、何を目的にして俺たちと一緒にいるのかは、この際問題じゃないんだろうさ。俺が言いたいのは、そこじゃないしな」
──
「例え相手が
指先に
「俺は、容赦しねーよ?」
ニカッと、裏表のない笑みを
「得体の知れない子供よりも、
「…………」
「……んん? 俺、間違ってる、のか?」
黙ってしまった
──子供への接し方なんて、知らねーからなぁ。これでよかったのかすら、俺にはわかんないや。でも、さっき言ったのは事実だし。
うーんと、腕を組んで悩む。けれど悩むこと自体が苦手な彼にとって、この時間ことが無駄だとわかったよう。
両腰に手を置いて「わからんから、この話は終わり」と、開き直った。
これには、
「……んんっ!
──ああ、
ときどき訪れる、不思議な想い。これの正体を知る間もなく、ふたりを交互に凝視していった。
「……んーとだな。
「え?」
彼らから手を離して、ふたりの頭を撫でた。
「
基本、
けれど
笑顔だけは絶やさず、
銀髪の美しい彼は
「で?
その瞳は凍りつくように。
その声は優しさなど壊す。
「……っ!?」
やってしまった本人は、バツが悪そうに頭を掻いた。
──はは。我ながら、大人げないって思うよ。でも俺は
心の中で謝罪する。けれど気持ちを曲げるつもりはなく、爪先を
「俺は、自分に正直なんだ。何が大切で、どうでもいいのか。それは、ハッキリとしてるからさ」
例え、
淡々とした口調でありながらも、申し訳なさそうに眉をよせた。
「……僕が教えられることは、限られています。僕が何者か。どこから来たのか。これを教えることはできません」
「まあそこは、期待してないよ。それに俺が知りたいのは、そこじゃないしな」
ニカッと、白い歯を見せた。
彼の人懐っこい笑顔に、
「……わかりました。お伝えできることは、すべて言います」
人差し指と中指を立てた。
「僕が教えることができるのは、ふたつです。ひとつは、この町を出なければならない理由です。それは、
「……何となく、そんな感じはしてたけど。何が、どう関わってくるんだ?」
逃げ出そうしているロバの紐を握り、半ば無理やり建物の柱に縛る。決して毛並みがいいとは言えないロバだが、それでも
そのこともあり、機嫌を損ねないよう、人参や林檎などをたくさん与える。
「こいつも、随分と走ってくれたよな。ありがとうな」
一言だけ例を伝え、
「……僕は元々ある目的を持って、この地に訪れました」
「目的?」
「はい。その目的は、
感情のこもらない声で語る。
「なあ、どういう意味だと思う?」
「わかりません。でも、もしかしたら
「……確かに、それはあり得るけどさ」
子供は、ロバに顔を舐められながら喜んでいた。ふたりからの視線に気づくなり、笑顔で手をふっている。
「…………なあ
「
「…………」
空を見上げ、長いまつ毛を震わせる。深く深呼吸して両目を開けた。
「──私は、幽霊谷……いいえ。
大きな瞳の角に、涙を溜めていく。
冬の冷たい風があたれば、銀の美しい髪がより一層儚さを増していった。
「愚かで、馬鹿な子供。そんな私の話を……聞いてくれますか?」
靡く髪を手で押さえながら伝える姿は、まさしく女神だ。儚くも脆く、砕け散っていきそうな姿勢で、昔を語っていった。
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