第28話 名字には秘密がある。だけど……
「……
鏡の中に閉じこめられているせいで、表情まではわからない。けれど声から、明るさが消えている。それだけは、呑気な
「本当に、どうしたんだ? ……今の
『……私は、見ていることしかできなかった』
「何を?」
『…………』
これ以上のことを聞くのは難しいようで、
──うーん。どういう意味だ? そもそも
けれど
「……本当は、無理やり聞きたくはなかった。でも、このまま謎が増えていくのは、どうにも性に合わなくてさ」
心配する
「なあ
『……答えたくないと言ったら?』
「もしそうだったら、俺は
『…………変な人』
「はは、よく言われる……って、うわっ!?」
苦笑いしながら頬を掻く。
瞬間、鏡が淡い
光が収まり、ふたりは目を開く。するとそこには、銀髪を携えた美しい人──
けれど笑顔ではなく、どこか沈んだ表情をしている。眉根は極限まで下がり。瞳は潤んでいた。今にも泣き出してしまいそうな顔で、
「……うっ! かわいい……じゃなくて!
──触れる。よかった、幻影じゃなかった。
目の前にずっと求めていた人がいて、触れたいと願った者の姿がある。それだけで幸せを感じてしまい、目頭が熱くなっていった。
ぐしっと、誰にも気づかれないように目を拭く。
「
ギュッと、
「すみません。実を言うと、この町に着いてから、鏡から脱出することもできてたんです。でも……」
両側に黒が混じる銀髪を両手で握る。白い頬を、紅色に染めた。大きな瞳を潤ませ、上目遣いになった。
「……っ!?」
「あ、あなたが、私を呼ぶ声が聞こえてきたんです。その声がすごく苦しそうで……で、でも……」
もじもじと。何か言いたげな眼差しを向けてくる。
「わ、私自身が、あなたと触れていないと辛くて。触れないと思うだけで、胸の奥が苦しくなってきてしまいます」
ふふっと、はにかんだ。美しさの中に、儚さを混ぜる。薄く、艶のある桃色の唇から吐息が洩れた。
「……っ!?」
抱きしめていた
──
懐かしい。そう、思ってしまった。
なぜ、そのようなことを考えてしまうのか。彼自身、不思議でならなかった。
「……
硬直した
「んんっ! 本当にかわいい!」
直前まで思っていたことなどすっかり忘れ、
一緒にいる
「……あ、あの
それでも
「へ? あ、えっと……な、何だ?」
「……さっきあなたは、何を質問しようとしていたのですか?」
「あ、ああ、そのことね」
ふと、自分が言い出したことを思い出した。こほんっと軽く咳払いをして、
「
見かねた
彼は自分の名字について、そう教えた。けれど
それだけが、ずっと引っかかていた。
「……まさかとは思うけど。俺たち、血が繋がった兄弟とかじ……」
「それは、ありえません! 兄弟のはずがない! そう、信じたい……」
疑うなと言わんばかりに、言葉を被せられてしまう。けれど語る声は、少しずつ勢いをなくしていった。
「え? そう、なの?」
「はい。私はある理由で叔父上たちに拾われ、育てられました。その際に、
「…………」
「あれ? でもそうなると、何で名字を変えたんだ?」
「それは私が──」
町の人々は何だどうしたと、大慌てだ。
警戒を顕にしたふたりは腕を掴んだ者を睨む。けれもそこにいたのは、
「父上、母上。急いでこの町から離れましょう! そうしないと……」
普段の、のんびりした口調ではなかった。早口で、すぐに逃げたいという気持ちが眉に現れている。
「
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