第五章 動き出した過去
第27話 王都に到着。そして過去が明るみに出る
数多くの因縁がある地である
王都
「……ここが、王都【
ロバの手綱を引きながら、
今まで通ってきた歩きにくい地面とは違い、砂利道ではない。凸凹はなく、きれいに整備されていていた。大きな荷馬車が通れるほどに道端は広く、とても賑わっている。
道の両端には
紐には等間隔の提灯がぶら下がっていて、風に揺られて動いている。
目に見えるほとんどの家の屋根にそれが施されていた。
「ああ、そうか。もうすぐ、
昼間だからか。提灯は灯火のない、ただの飾り物となっている。ゆらゆらと冬の風に揺られては、カサカサと音をたていた。
「来たことなかったから知らねーけど、普段もこんなに人多いのか?」
女性は桃や黄色の華服を着、頭に
子供たちは汚れてもいいようにと、主に薄茶の布を使った服だ。大人たちのように華服ではなく、質素な布を適当に服にしたような感じがある。案の定、子供たちの服は泥にまみれていた。
それを見た親が子供を叱り、首根っこを引っぱって家へと入っていく。
そんな微笑ましい、平和そのものな光景を見て、
『──ここは、國の中心都市ですらね。お祭りだろうと、何も変わりませんよ』
ふと、ロバの背中に乗る
「
ここまでの最中、
鏡を手に持つ
『はい。理由はわかりませんが、
「ん? どうした?」
『……い、今の私は、どういう状況……いえ。どういった姿になっているのでしょう?』
どうやら人間の姿ではなく、鏡になっているということを知らないよう。
『……そう、ですか。鏡の中に……どうりで、自由が利かないなと思いましたよ』
「手がかりがここにあるって、お師匠様に聞いてさ。それで……あっ、そう言えば
建物の中でのできごとを、かいつまんで話す。
『……ああ、やはりあの画面の人たちは、お祖父たちだったんですね?』
「え? 気づいてたのか?」
『…………はい、霊力の流れでわかりましたから』
少しの間を置いて放された声は、いつもどおり透き通っていた。けれど姿が見えないため、感情を摘みとることは難しい。
それをわかっていながら、
『真っ暗です。何も、ありません。お祖父たちが、何を思ってこの鏡を飾っていたのか。それすらわかりません。ただ……』
「ただ?」
『…………』
そこまで言うと、今度は押し黙ってしまう。
その沈黙に耐えれるほど、彼はできた人間ではなかった。うーんと困惑しながら眉根をよせ、どうしたものかと頬を掻く。
「感覚ってのは、あるのか?」
くすぐったかったりするのだろうか。一種の実験として、鏡のあちこちを触ってみた。
けれど
匂いを嗅ぐことはもちろん、何かを食べることすらできなかった。
『食事は取りたいんですけどね』
「大食いだもんな?」
『むっ。余計なお世話です!』
「食欲だけは、どんなときでも健在ってか?
『ほっといてください!』
顔すら見えないはずの
──やっば。
「
無意識に鏡を抱きしめた。ひたすら鏡を撫でて、頬ですりすりとする。そして、かわいいを連呼した。
「──わぁ。やっぱり、父上と母上は仲良しさんですね」
そのときだ。一緒にいながらも蚊帳の外状態だった
ロバの背中に乗りながら
「
突然の行動に、彼はたじろいだ。けれど敵意などありはしないことは周知の上だったので、やんわりと尋ねるだけに留める。
「父上も、それから母上も、本当に仲良しです。息子としては、とても嬉しいです。でも……」
笑顔が苦いものへと変わる。数歩だけロバを進ませ、彼へ小声であることを伝えた。
「父上、ここにはたくさんの人がいます。おふたりが仲良しなのはいいのですが、今の父上は、鏡に向かってにやけている変態にしか見えないかと」
「……っ!?」
平たく言うなれば、自分大好き人間としか思われない。だった。
言われて即座に鏡から顔を離し、
「お母さーん、あのお兄ちゃん、鏡見て凄い笑ってるよ?」
「しっ! 見ちゃいけません!」
通行人の親子から、そんな言葉が投げられた。行き交う人々は
「…………ひょーー!」
いつもの間抜けぶりを発揮する。
顔を真っ赤にさせたかと思えば青くなり、紫になってしまった。顔芸のようなことをしながら、その場にしゃがみこんでしまう。
──そうだった。ここは町中だった。忘れてたーー! でも、
恥ずかしさ、それから、仲良しと言われたことへの嬉しさか。彼の脳は容量を超えていった。
「……父上は、本当に忙しい方ですね? そう、思いませんか母上」
『…………ただの、考えなしなだけです』
子供には優しい
そのことに
「そう、ですか? それよりも母上、先ほど父上が言っていた
ロバから降りて、適当な屋根の下に腰を落ち着かせた。鏡を膝の上に乗せて、純粋な眼差しで見下ろす。
『……
【
その昔、幽霊谷の近くに
けれど町は、それを疎ましく思った人間たちに滅ぼされてしまう。
それ以降、國の中心都市である
ある日の夜、
『そのときに亡くなった者たちの魂を鎮めるという意味で、この
淡々と。けれど澄んだ声は、
『……私は、望んでいなかった』
「え?」
何のことだろうかと、
『……あんな結末を、私は望んでなんかいなかった。私が……皆を殺してしまった』
鏡から発せられる声はとてと寂しそうだ。そして、哀しみすら含んでいる。
そう、感じてしまうような、美しい声だった。
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