第24話 建物の秘密、それから仮面の三人組の謎
男の名は
各地で弟子をとり、仙人としての力と地位を確かなものへと変えていった。
そしてその弟子のひとりが、
「──嘘、だろ?
その事実に驚愕しながら、心を落ち着かせるために深呼吸をする。ゆっくりと起き上がり、男──
男は眉根をつねによせ、威厳を保つかのように彼を見下ろしている。整った顔立ちに見合うだけの青い華服の袖を揺らし、無言の圧をかけていった。
「……うっ、ぐっ!」
──俺、お師匠様のこと、本当に苦手なんだよなぁ。何考えるかわかんねーし。何よりも、笑顔なんて見たことねーもん。とは言え、このまま何も話さないわけにはいかないし……
「あ、あの、お師匠様……」
「何だ?」
「……な、何でここに? それに、仮面被ってたのは何でです?」
すーはーと、何度も深呼吸を繰り返した。真剣な面持ちで男を見つめ、背筋を伸ばす。自身の後ろにある鏡を気にしながら視線だけを男の元へとやった。
「…………」
彼は殴られると思い、両目をギュッと閉じる。しかし……
「……あ、あれ?」
「……なるほどな」
男の腕は鏡へと伸ばされた。壁に引っついている鏡を器用に取り外し、じっと凝視する。そのまま丁寧に鏡を彼へ渡し、扉へと進んだ。扉の前で立ち止まり、踵を返して嘆息する。
「馬鹿弟子よ、よく聞きなさい」
青い華服を
「おそらく私の孫は、
「……な、何ですかそれ?」
ふたりは鏡を見下ろした。
鏡はうんともすんとも言わない。磨かれてきれいな表面だけが、ひっそりと輝いていた。
「妖魔や妖怪の類いが住んでいた鏡のことだ。それらが外へ出ていっても、妖力は残っている。それが人の闇の部分を蝕み、鏡の中へと誘いこむのだ」
「え? な、何でそんな危ないものを……ってか、そもそもここは、どういったところなんです?」
一刻も早く
建物の入り口付近でとまった男は、目線を周囲へと走らせた。口を閉ざし、静かに、ゆっくりと呼吸をする。そして
「ここは生前、お前の母が暮らしていた場所だ」
懐かしいのだろうか。少しばかり瞳が潤んでいるよう。両拳を見れば、強く握られていた。
「正確には、お前の父が病状のためにと作った屋敷だがな」
「そう、か。ここは母上の……」
──病弱だったがゆえに息子の俺ですら、滅多に会えなかったんだよな。
階段へと腰かける。隣には
煩わしい音などない。
誰にも邪魔されない、静寂さがある。
それを心に刻み、
「物心ついた頃に俺は、お師匠様の元へ預けられてた。母上の顔は知っていても……どこにいて、何をしているのかまでは、知らされていなかった」
それを寂しいとすら感じていた。幼い頃から親元を離れ、ひとりで見知らぬ者たちと暮らす。それがどんなに苦しくて寂しいことだったのか。
今さらながらに、
「……
「お師匠様が謝ることないですよ。寿命の短い……母上が、親父の半分すら生きていけないってことぐらい、俺でもわかります。でも……」
療養のために作った屋敷にしては、術で隠すなどして、凝っていないか。そう、質問した。
「……お前の母は、少し特殊な力を持っていた。その力を手に入れれば、お前の父に変わって妖怪たちを支配できるというほどの、な」
「え?」
聞いたことがない。きょとんとしながら、男の説明に耳を傾ける。
「お前の母が男だというのは、知っておろう?」
「あ、はい。でも……」
──男では子供はできない。その機能がついてないから。でも母上は、男だけど俺を産んだ。これ、ずっと気になってことなんだよなぁ。
その先の話を知りたい。彼は瞳を輝かせた。
「……私も詳しくは知らん。ただ、お前の母は男と交わるときだけ、体の中に女性としての機能が産まれる体質だったらしい」
「……えー? それ、体質とかの問題? ってか、明らかに人間じゃないような……」
耳にしたことのなかった事実に驚きはすれど、好奇心の方が上をいってしまう。ワクワクとした気持ちを隠し、男の話を聞き入った。
「それについては私も、お前の父ですらよくわかってはいない。それでもお前の父は、母を愛していた。だからこそ、ここで隠れるように過ごしてもらったそうだ」
見つかってしまえば、人間たちの道具にされるだけ。最悪、妖怪を根絶やしにするための材料になってしまう。それだけは避けなければならなかった。
ここを不思議な術で隠したのも、人間たちから守るため。
そう教えながら懐から仮面を取り出し、顔へ被せていった。
「この仮面は、私たちの匂いを消す効果がある。人間であることを隠し、彼ら……妖怪たちとともに、掃除をしていたというわけだ」
「……この建物を外から見えなくしていた理由も、お師匠様がここにいた理由もわかりました。でもそれと、この鏡は説明がつかない」
──母上や父親の話しは、すごい魅力的だ。もっと聞いていたい。でも俺は、
腕に抱く鏡を見つめ、顔を上げる。
「お師匠様! この鏡は、いったん何なんですか!?
どうやったら、大切な人を取り戻せるのか。声を張り上げながら尋ねようとした。
そのとき、入り口の扉が勢いよく開かれる。
ふたりは扉を注視した。
するとそこには、
「離せッス! 俺っちを離すッスよーー!」
黄色い華服の男に担がれている何かが喚き続けている。担ぐ側の男は「うるせー! 馬鹿息子が!」と、短気なまでに騒いでいた。
「あ、
「……いや
──そうか。あの黄色い服は、
目配せだけで、
男は頷いている。
「
「お前さては、家出してきやがったな?」
「ギクッ!」
「……マジかよ」
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