第19話 戯山《ぎざん》は不思議な出来事だらけだね
「そう言えば、お師匠様から聞いたことがある。この
ロバを引きながら、
「……咲いている花は、彼岸花だそうです。今よりもずっと前……名を呼ぶことを許されない関所が滅ぶよりも遥か昔、
パッカパカ……
不思議な力を使い、へとへとになった
いつも膝の上に座っている
それを見かねた
存外、馬が合うふたりのようで、
そんなふたりに微笑みを送り、
「
「へえ……ってか、どの時代にもいるんだな。反逆者とかって」
意外と
「人は常に争い続けます。たとえ仙人として力を得たとしても、妖怪や鬼といったものへ成り果てたとしても」
空を仰ぎ見た。
山中を奥に進むにつれ、少しずつ雲が厚くなっていく。それはこの地を覆う、
「花を植えた人は、この地を二度と戦場にしないために。哀しみを生まないためにと、花だらけにしたと聞きます」
「……まあ、普通は、きれいな花を潰そうなんて考えねーよな」
美しく咲く花は、人の心をときに癒す。もちろん心の淀み具合によっては、何の効果もでないのだろう。それでも気持ちだけでもと、植えた人の願いがこめられる。
「話を戻しますが、
「……へ、へぇ」
先ほどまでの興味は消え失せたのか、そっけない返事になっていた。
「ちょっと
顔をズイッと近づける。
「うぐっ! かわっ……」
瞬間、彼は顔を真っ赤にさせてたじろいでしまった。
「うがぁーー!
謎の奇声をあげながら、ひとりで雑草の中へと入っていってしまった。馬鹿力を持っているようで、彼が進んだ場所の木々は見事に倒れていく。
「……あの人、頭、大丈夫ですかね?」
誰に尋ねるでもなく、ただ、ボソッと呟いた。
ふたりのやり取りを間近で目撃していた
そんなふたりに、
「……とりあえず、
──このふたりは、何がいいたいのだろう? そもそも、なぜ私と
うーんと、顎に手をあてながら真剣に考えた。
そんなことを思っていると、ガサッと音がした。生い茂る雑草が動き、そこから
「何で、誰も追いかけてきてくれないんだよ!? ひとりで暴走して恥ずかしいだろ!」
耳の先まで、林檎のように真っ赤になっていた。
「……あなた、相当おかしなこと言ってません?」
「知ってる! おかしなこと言ってるって、知ってるよ!」
「……チッ」
彼の無駄に明るい性格に苛立ちを覚えた
普段のおとなくて優雅な
「……はあ。もういいですよ。それで? 何か、収穫があったから戻ってきたんでしょう?」
そんな彼は、にっと笑う。
「ああ、もちろん。この先に、
言い
「変、とは?」
「人がいるわけじゃねーと思う。だけど何か、気配がするんだよな。それに、少し中に入ってみたんだけどさ……」
「え? 侵入できたんですか?」
廃墟だったとしても、鍵がかかっている可能性はあった。その予想を裏切る答えに、
「いや、鍵はかかってた。でも俺は、義賊だぜ? 鍵を開けるなんて、ちょちょいのちょい、ってね」
器用な手先だろと、自慢気に胸をはった。
「それ、自慢することではないと思いますが……まあ、いいでしょう。それで? 中はどうなってました?」
「んー……」
そこは草木もなければ、花すらなかった。土埃が舞うだけの……謂わば、荒れ地である。
「見事なまでに荒野ですね。というか
地面を少しだけ蹴りあげた。砂の細かな粒子が飛び、こほっと
ふとそのとき、
誰もが、彼の指が示す場所を凝視する。すると……
「……え!?」
何もないはずの場所に、うっすらと、透明な建物が映っていた。
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